月を射よ
と
高慢な姫が命じたので
男はきりきりと弓を引き絞り、矢を放った
蜂蜜色の望月に
高い丘の上から
高慢な姫は美しく、贈り物を求めてはいつも偉そうに笑うので
男は次々と矢を放った
高慢な姫は美しく、数多の崇拝者たちにいつも囲まれているので
男は次々と矢を放った
幾人もの求婚者たちのように麗しい言葉を連ねることが出来ないから
男は次々と矢を放った
矢が尽きるまで
空が白むまで
幾夜も幾夜も
男は、月に向かって弓を引く
男は月が好きだった
冷たく光る月が
高みに在って触れることの出来ぬ月が
それでも、それだからこそ
男は月が好きだったが
月を射よ
と
高慢な姫が命じたので
きりきりと弓を引き絞り、矢を放った
蜂蜜色の望月に
いつも月を見上げていた高い丘の上から
高慢な姫は美しく、贈り物を捧げればいつも偉そうに男に笑うので
男は次々と矢を放った
やがて弓が毀れると
男は漸く丘をおり
宮殿へと向かう
旅に出る許しを得るために
国一番高い山に登るために
高慢な姫は美しく、冷たい月の光は彼女に良く似合うだろうから
けれども高慢な姫は偉そうに男の願いを撥ね付ける
「月を落とせぬのなら眼を潰せ」
「月を壊せぬのならお前の眼を潰せ」
「私でないものを映すその眼を潰せ」
終