「なにしに来た。」
兄がいう。
僕にだってわからない。
死んだ父親のこと、それは、すごいショックだった。
でも、翌朝、彼女を僕のところへ寄越した、兄の“親切心”のほうが、
実のところ、よっぽど、ショックだった。
兄に夢中だった、っていう彼女に、僕を慰めに寄越すなんて、
どうかしている。つまらない、らしくもない、思い遣りだ。
だから、兄とけんかした。
兄の願いを絶ってやりたかった。絶望させてやりたかった。
なのに、僕はすぐに後悔していた。
怒っているのに、一瞬、傷ついたみたいにかなしげにみえた兄のかお。そのせいだ。
話をきいてほしいのに、ベラも彼女も、どこにもいなかった。
頭のなかに兄のかおがぐるぐるして、
かなしくって、いらいらして、どうしようもなかった。
だから、また来ちゃったんだ、この部屋に。
困ったような顔をして、フェリスがでていくのを見送ると、
いきなり首を掴まれてキスされた。
すごく優しかった。だから混乱した。
嫌なわけじゃない。
嫌なわけじゃないけど、突然すぎたと思う。
兄が僕を離して、唇の端っこだけで笑った。
「ばかかおまえ。わかってないな。誰かに教わってないのかよ。」
僕の口を、歯を、こじあけられてまたキスされた。
どうしてここに来たんだろう。わかってる。
どんな言い訳をしようと思ってたのか、思い出そうとしたけど、
背中の骨が溶けそうに気分がよくて、よくわからなくなった。
兄の空のベッドでよく泣いてた。
そんなことばっかり思い出して、また泣きそうになった。
「で、なにしにきたんだ?」
兄の目が意地悪く問いかける。
どうして僕ばかりが、ほんとのことをいわなくちゃいけないんだ。
答えるかわりに、僕からキスをした。
やっと手に入れられる、と思えた。
実の弟に、こんなに夢中になって、こんなに執着しているなんて、
恐ろしい悪事であることには、違いない。
でも、そんなこと、構わない。
おれは、悪党の子だ。罪の子だ。
だから、いつでもいくらでも、悪事をはたらく。
いつだって罪とともにいるんだ。
この血を分けた弟と、
この孤独を分け合えるはずの弟と、片時だって離れて生きれるはずがない。
まつげに涙がたまってる。ため息が長い。
まつげに唇をつけると、弟が切なげに目をあげた。
苦しいか?
優しくきくのがなんだか恥ずかしかった。
だから、指がきく。
苦しいか?
だったら、それは、いい苦しさか?
もっと、って思う苦しさか?
おれの指が、答えに辿り着いて、弟が、ちいさな叫びをあげた。
「…ウォルター…」
耳許を頼りなくかすめていった弟の息は、強烈な催淫剤だ。
羞恥と怖れと、未知の感覚に震える弟の脚を、無理に大きく開かせて、
おれは、その奥津城へと、踏み入った。
わるいことを、もっとしよう。ジョシュ。
くるしくって、つらくって、
でも、ぜったいに終わりがきてほしくないくらい、
素晴しく、わるいことを、ふたりで。
無意識に逃がれようとする僕の肩を、押さえつけるようにして、
兄が、僕のなかに、何度も自分を埋め込もうとする。
元はひとつだったものを、また、ひとつにするだけだ。
なのになぜ、ちゃんと収まらないんだ。
と、いらだっているような動作だった。
傲慢で利己的で恥知らずな兄の動きかたを、
僕のからだのあんな場所が受け止めている。
こすれあう部分が火をおこして、
まったく知らなかった灼けるみたいな痛みがやってくる。
だけど、僕は、ずっと前から、それを待っていたように、許していたように、
感じていた。
痛みのなかに時折、細い糸のような快感がまじってくる。
糸をたぐりよせようとして、僕の腰が動くと、
兄が気づいて、動きを添わせてくれた。
縒られた糸はすこしずつ太くなって、腰から背中をつらぬくようになる。
苦痛が幸福を織り上げてる、と思った。
ドンドンドン!
隣に壁を叩かれた。
赤ん坊みたいに、僕が叫び続けたからだ。
すこし笑って、兄は、僕のくちに自分の肩を押し付けた。
目が覚めたら、ベッドの隅に兄が腰掛けていた。
「愛してるから、謝らない。」
裸の背中をむけて、怒ったようにいう。
自信家の兄が、なぜかちいさく見えた。
自分のほうが、より愛してしまっていると思うと、自信を失う。
それは、昨日までの僕だ。
「永遠に一緒だよ。盗賊兄弟は。」
僕は、僕より7インチは背の高い兄を、自分の子供みたいに抱きしめた。
the Makers: the sons of sin
by サラ・イチコ
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