秋の夜長は映画鑑賞に限る。
ドクの店を珍しく早く切り上げた兄弟は、我が家のTVで深夜映画を楽しむことにした。











マヨネーズ











ボロけたソファに並んで座り、映りが悪いながらも楽しみにしていたアクション映画を観る。
途中、席を離れたマーフィーはキッチンから戻ってくるとガサゴソと音を立てている。
気にはなったが画面から目を離せないコナーは、CMに入ったところで何をしてるんだとマーフィーを見ると呆れたような声をあげた。

「マーフ、おまえ、何喰ってんだ?」

「ん? いや、ちょっと小腹減ったし・・・クラッカー」

「じゃなくて、その上だよっ」

見れば一枚のクラッカーの上に薄いクリーム色の物体がうずたかく盛り上がっている。
それを今まさに口の中に放り込もうとしていたところにコナーの詰問だった。

「マヨネーズ、だけど?」

「おまえ、そのマヨネーズ、まさか昨日買ったヤツかよ? あー、もう半分ないじゃないかっ」

「だって、クラッカーだけじゃパサパサで美味くないんだよ。なんだよ、コナーも喰いたかったのか? ホレ」

とソフトクリームのごとく高く渦巻いてるヤツをコナーに差し出してくる。

「いらねえよ! そんなもん食えるかっ。・・・おまえ、夕飯ん時もピラフにマヨネーズ掛けてたよなぁ? なんでもかんでもグルグルグルグル掛けやがって、加減って物を知らねえのか、おまえはっ・・・・」

非難めいたコナーの口調に気の短いマーフィーは早くもキレ始めたのか、ジト目になってコナーを睨みつける。

「あ? 俺が好きでマヨネーズ喰って、なんかコナーに迷惑かけたかよっ!」

「・・・・おまえ、最近太ったろ」

「食欲の秋なんだからしょうがないだろ! 悪いか!?」

「・・・・重いんだよ」

「なにがっ!?」

「俺が、さ・・・乗っかられると」

自分で言っときながら赤い顔をしているコナーもコナーだが、グチられたぐらいじゃマーフィーはへこたれる性格ではなかった。

「じゃ、今度から俺の上に乗せてやる!」

「・・・・・・・・」

「問題解決だなっ!?」

こ、この鉄壁なまでにアホな弟には何を言っても通用しないのか? 
眩暈がしてくるのを抑えつつ、コナーは意を決し高らかに宣言した。

「わかった! 今後マヨネーズは俺の管轄下に置く!」

「なんだよ、それ! コナーはマヨネーズなんか使わねえだろ?」

「使うさ! あ〜、キャベツの千切りとか、え〜、お好み焼き? あ、やんねえか・・・とにかくっ、マヨネーズ使う時は俺に許しを乞え! で、俺が適量掛けてやる!」

手からマヨネーズをふんだくられ、ビシッと指まで突きつけられて、ついにマーフィーの理性の回路がブチブチ音を立ててキレた。

「てっめえぇぇ・・・コナーだって冷蔵庫に・・・おらぁっ」

掛け声と共に飛んでいって冷蔵庫を開けると、マーフィーはコナーが仕事帰りに買って後生大事に抱えてきたショートケーキの皿を取り出して掲げた。

「あっ、それはおまえ、疲れた時食べようと思って・・・」

「こんなクソ甘いもんばっか喰いやがって!」

「お、俺はおまえ、運動量が多いからいいんだよ!」

「なんの運動量だっ! てめえばっか好きなもん喰わせてたまるか! 貸せ、この野郎っ」

マーフィーはコナーの手からマヨネーズを取り返すと、あろうことかショートケーキの上にグルグルと円を描き始めた。
見る見るうちにイチゴが、尖った生クリームがマヨネーズの下に埋もれていく。

「あああっ、お、俺のケーキィィ。・・・・ちっきしょう。喰ってやる、絶対喰ってやる!」

ここに至ってついにコナーもぶち切れたか、眉を下げ涙目になってマーフィーに飛びつくとマヨネーズにまみれた自分のケーキにかぶりついた。

「あっ、イヤしい野郎だな。くそ、喰われてたまるかっ」

マーフィーも奪い取られそうになった皿を握る手に力を込め、コナーに頬をつっくけるようにしてマヨケーキをほおばった。
相手を押し合いながら、その世にも奇妙なケーキを味わったふたりはふと顔を上げ、互いに顔を見つめ合った。

「・・・・・・」「・・・・・・」

「お、なんだよ」

「美味いじゃん、これ」

意外にもショートケーキの生クリームとマヨネーズは相性抜群だった。本当に。信じられないことだが。
気勢をそがれバツの悪くなった兄弟は、互いにクリームだらけの顔を背け、べたつく手をジーンズに擦りつけたりしている。

「・・・まあ、ガキの舌には合うんじゃねえの?」

「ふん、ガキで悪かったな。・・・それよか悪かったな、ケーキ」

「ま、いいって。・・・マヨネーズ、恐るべしってとこだな?」

「当たり前だ。マヨネーズを笑う者はマヨネーズに泣くんだよ」

「バカマーフ、何のセリフだそりゃ」

どうにかお互いの嗜好とプライドを保つことが出来、内心ホッとしながら休戦協定を結ぶ。
コナーがマーフィーの頬についたマヨネーズをひとさし指で拭い取って舐め、ボソボソと呟く。

「好きなモンも喰い過ぎると身体に毒だ・・・・心配してんだぜ?」

「分かったよ。でも、食い過ぎたら一緒に運動してくれるんだろ? それともコナーも喰いすぎたら身体に悪いかな?」

「・・・アホか」

ニヤリ笑ったマーフィーはイチゴみたいに赤く染まったコナーの、やっぱりマヨネーズとクリームで汚れた頬を舌でペロリと舐め上げた。



         *            *           *



「おい、映画」

「あ」

気が付けばふたりの観たかった映画はとっくに終わって、画面は砂嵐状態。
また顔を見合わせ、深い溜め息をつく兄弟。
どっと疲れを感じ、意気消沈のまま「寝るか」ということになり、ふたりはべたついた顔や手をシャワーで洗い流すとそれぞれのベッドに潜り込んだ。


「消すぞ」

スタンドのスイッチに手を伸ばしたコナーにマーフィーが

「そうだ、コナー。今度マヨネーズ塗ってやっていいか?」

と訊いてその顔に煙草の箱を叩きつけられたのがその騒々しい夜の締めくくりだった。






マヨネーズ

by 銀子





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