駄菓子菓子
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「あー、斎原。一寸待って」
(類家の)夕飯の材料を買いに来たスーパーで、フラフラと商品棚を眺めていた斎原は、投げ掛けられた言葉に振り返った。
すると買い物籠を手に持った類家が、如何にも興味を引かれた様子で脇の棚を凝視している。
その棚は生鮮食品の類ではなく、何時も彼は肉しか買って行かないようなイメージだった為、逆にそちらに興味を引かれて斎原は類家の背後へと立った。
しかしそれは直ぐに然して珍しい事ではなくなった。
何の事は無い、類家が見ていたのは菓子売り場のコーナーだったからだ。
甘いもの好きな類家が菓子を買う、何時もの事だ。
興味が失せ、また別な棚を見に行こうとする斎原に、類家は慌てて手招きをする。
「なぁ、今時、珍しいと思わない?」
手招きをしつつ、もう一方の手が指を指している所を覗き込んでみれば。
確かに今時にしては珍しい、『駄菓子』と呼ばれる菓子が棚の隅に鎮座していた。
きなこ棒のパック、アワ玉の袋、10円ガムの包み、五円チョコ、などなど。
「何だか、懐かしいよな」
類家の言葉に、斎原の細められていた目尻が微かに緩む。
今でこそ物を食べる事は出来ないが、彼とて子供の頃にはどれか一つくらい口にした事はある。
「んー、斎原。どれが良い?」
問い掛けと共に突如類家が差し出した物に、斎原はソレを目にした瞬間、思わずマジマジと眺めてしまった。
白、黄色、ピンク、紫、オレンジ、黄緑…とカラフルな太い棒の束。
だがよくよく見ればそれは只の棒ではなく、所謂『チューペット』だった。
あの夏の暑い日とかに凍らせておいて、ポッキンと折ってアイス代わりに食べたりするアレ。
意図の掴めぬ行動に僅かに斎原は逡巡を見せるが、類家が引く様子の無い事に、結局差し出された中から紫色の棒を指差す。
「斎原、ブドウね。じゃあ俺は…オレンジにしようかな」
斎原が選んだグレープとオレンジのチューペットを籠に入れ、残りを棚へと戻すと類家は籠を手に取り立ち上がった。
そんな類家に斎原は首を傾げながら視線を向ける事で何かを訴えようとする。
「どしたの?」
「……………」
投げ掛けられる視線と表情は、何時もの如く無表情。
…ではなく、何処か呆れたように口元を僅かに歪めている。
それを見た類家は言わんとする事が分かり、人差し指を立てながら口を開いた。
「アンタ…何子供臭い、バカな事してるんだって思ってるだろ?」
類家の言葉に、斎原の笑みが深くなる。
同時に類家の口元も楽しげに大きく弧を描いた。
「分かるよ。だって俺も、同じ事考えたから」
ヘラリとした笑みを浮かべたまま、類家はレジへと足を進めて行く。
駄菓子の並べられた棚を振り返りながら、斎原は先程とは別の微笑を零した。
興味を惹かれたなら好きな物を買えば良いのに、彼はわざわざ自分の分にも気を配ったのだから。
成人を過ぎた大人が二人、骨董屋でポリドリンクを口にする姿はどう想像してもコメディだ。
だがそれも悪くない。
そう思った斎原はレジに並ぶ類家の頭上を飛び越えると、品詰め用の机の前に降り立つ。
態度で急かされていると感じた類家は、不自然にならない程度に斎原の方へと手を振った。
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お菓子ネタ。駄菓子、大好きです。
↑で書いてたのは自分がよく買ってた物です。
あと酢だこさん太郎とよっちゃんイカね(笑)
この為にネットで調べたのですが、チューペットって商品名だったんだ…初めて知ったよ。
地域によって呼称が若干違うみたいです。ちなみに自分は『ポッキンアイス』。
まあ普通にジュースとしても飲みましたがね( ´∀`)
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ショコ / イリグチ