
マナくん(管理人)が住む村の様子、これからの課題と要望を、創作にまとめました。
「あっ、きた、きた、理絵からのメール!」
喬木村育ちの佳代は、地域の公立高校へ通う十六歳。帰宅後、夕食をすませると、マイルームでノートパソコンに向かう。
高校生同士の理絵との関係は、メル友(メール友だち)だ。インターネットの掲示板を通じ、メールのやりとりがはじまった。学校でのできごと、テレビ番組のこと、ときには彼氏の話が飛び出すなど、二人とも思いのままを書く。
中京圏で暮らす理絵が、地名(村の名前)について尋ねてきた。
「佳代のとこ、喬木村よね。読み方が分かんないんだけどさー。《きょうぼくむら》っていうのかな…」
佳代は、ちょっと戸惑った。
「ここはね、《たかぎむら》って読むの。旧字だし、難しい名前よね!」
間を置かず、再度、理絵からメールがくる。
「茨城県には、つくば市とか、ひたちなか市なんていうのがあるでしょ。いっそ《たかぎ村》って、ひらがなに換えちゃったら、どうかな。漢字のよさはあるけど、村のイメージを、一新できるんじゃないかしら?…」
理絵の提案で、佳代が思い出したのは、家族あてにきた役場の封筒だった。宛名の下には、役場の住所とともに《たかぎ》と、大きな文字で印刷されていた。村名に関した意見や検討があると分かり、次第に、自分の住む地域に関心を持つようになっていく。
理絵へのメールに、
「私、村のこと全然、考えてもみなかった…。みんなが、村名について論議を重ねれば、(村の名前が)ひらがなに換わるかもしれないね!」
と、書けば、
「そうよ!。いちご狩りをはじめ、観光全般にわたって効果バツグンだわ!」
の答えが、佳代のもとに届く。こうして二人は、喬木村の将来像を語り合っていく。
立秋が近づいたころ、高速バスで飯田バスターミナルに着いた理絵を、佳代が出迎える。偶然にも、二人はワンピース姿の初対面となった。河岸段丘に建つ、佳代の家を見渡しながら、
「信州って、なんとなく落ち着きを感じさせるところよね!」
と、理絵はつぶやく。彼女にとって長野は、あこがれの地であった。
つぎの日、メールよりも親近感を持った二人は、知的障害者施設「喬木悠生寮」で、ボランティア体験をする。彼女たちは利用者とともに、農園で作物の手入れをしたり、精密会社からの下請け作業をし、食事も一緒に摂った。
理絵は感じたままを、佳代に投げかける。
「おじさん、おばさんたち、みんな親しみの持てる人ばっかりよね。けどさぁ、どうして人家のない、寂しい場所に住んでるの(福祉施設があるの)?」
「私も同じこと、感じたよ。(施設の)まわりは農地が広がってるけど、後継者難で荒れているわ。地元や村は、引き続き農地利用で模索しているらしいの…」
と、答えが返ってくる。
実情を聞いた理絵は、手振りを混ぜて話しはじめる。
「ここは、見晴らしのよい場所じゃーん。生活には適したとこだと思うんで、住宅団地にしちゃったら、どうなのかなー。村の発展になるし、施設利用者のみなさんにとっては、人とのつながりが深まり、防災においてもバックアップが得られるはずよ」
佳代は、首を大きく縦に振って見せた。
二人の熱弁は、夕空で赤く染まった山々にこだまする。
「ここのテレビは、どのチャンネルも衛星放送並みの画質だね。私の家、まわりがビルだらけなのよ。CATV(ケーブルテレビ)に入る前は、ひどいゴースト(二重映り現象)に悩まされていたの」
佳代の家は、自前のアンテナで放送を受信している。サテライト局(中継)の方向は見通しがよく、電波障害は起こらない。理絵からCATVの話が出て、彼女はうらやましそうな顔をした。
「理絵、CATVだったら、自主番組も多いよね!」
と、聞いてみる。NHKや民放のローカルニュースでも見られない、すぐ近くのできごとが放送されるという。
「いいなぁ。村のニュースは、オフトークで聴くしかないの。〈あっ、隣のおばさんが出てる〉とか〈(運よく画面に)自分が映ってる〉っていう、ときめきがほしいのよ」
CATVの魅力と、村内情報網のさらなる充実を望む、佳代のスピーチには力が入っていた。
「都市部では、二・三年後に地上波デジタル放送がはじまるの。地方だと、二〇〇六年からと聞くわ。それまでに、CATVによるデジタル放送やインターネットが、全村で楽しめるようになるといいね」
ものしり博士みたいな口調でいう理絵に、佳代は不思議に思う。〈ずいぶん、詳しいわね!〉といって、佳代が誘導尋問を仕掛けた。
「農村交流センターへ連れて行ってもらったとき、スタッフの人から聞いたのよ。でも、あと六年たたないと、CATVにならないだなんて、先の長い話よね」
素直な表情で話す理絵とは対照的に、ちょっぴりヤケになった佳代が一言いった。
「高校を卒業したら、CATVのある地域へ住もうかなぁ…」
理絵が、佳代の家に泊まり込んで、もう一週間が過ぎた。佳代の友だち数人と、コミュニケーションをしたり、特別養護老人ホーム「喬木荘」への訪問、椋鳩十記念図書館やJA保養センターへ行き、鉱泉にも浸かった。村の様子・魅力を、肌で感じとった。
「ねぇー、村のネットサービスがはじまるんだって…。グラウンド予約や図書検索ができるそうよ!」
信毎(信濃毎日新聞)日刊を手にした理絵が、心弾むように話せば、
「だけど、村内四カ所にある公開端末でないと、施設予約はできないでしょ。残念だわ。ネットを通じ、住民と公共機関が、気軽に情報交換できるシステムになればなぁ…」
と、佳代は(サービスへの)物足りなさを口にする。
「村全戸にコンピュータを入れて、ネットワークを組めたらいいなぁ。そして、一戸に一つ、メールアドレスを与える…。お知らせや個人情報を(メールで)配信するの。さまざまな種類の手続きにも、ネットを利用できたらなー」
心配顔で、理絵は反論に出る。
「佳代、よい知恵だけど、情報が漏れたりすると、こわいわよ。それに、誰もがパソコンを使える環境ではないでしょ。難しいと思うけどなぁ」
うつむいていた佳代が、大きな目をした。
「いろんな課題はあるけど、情報機器の改良はめまぐるしいよ。みんなが真剣になれば、できることじゃないかしら…」
説得力のある発言に、うなずく理絵だった。
お盆が過ぎてから、理絵は帰途につく。二十世紀最後の夏、高校生の彼女たちは喬木村に触れ、いくつかを学んだ。そして、村への夢を託した。
★ 村の名前、ひらがなにしたら…!
★ 荒れた農地、福祉の里にしちゃおう!
★ 村のニュース、CATVで見たいな!
★ 一戸に一つの、メールアドレス!
村への愛着心から生まれた四つの希望は、村民の共感と協力で実現されるであろう。
二人のメル友関係は、これからも続く。…
「二十一世紀の〈たかぎ〉は、若者の発想が光る村」
(佳代と理絵は、架空の人物です)
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