われら障害調査隊

も く じ
はじめに・出会い・教育 社会参加 ボランティア 愛を育む 私たちの障害・福祉論

【愛を育む】

第12話…「彼女の行動、ごくあたり前に受けとめたい!」

動物園へ出かけた和夫さんたち3人は、芝生でおしゃべりをしています。
檻(おり)の中で(芝生の)彼らをながめるライオンさん。上から見下ろすキリンさん。愉快なお猿さんまでも、
「こんなところで、まじめな話をしている人間なんて珍しいなぁ」
と、あきれているみたいです。
動物園のみなさん、変な目で見ないように、3人の熱弁を聞いていてくださいね。分かったゾウー≠っ、ぞうさんの大きな声が聞こえてきました。
幻聴の声・アナウンサー「和夫さんが読んでくれた創作の趣旨を、少し思い出してみましょう。
『陽子さんは会社の同僚、山上さんにバレンタインのチョコを渡します。彼に思いを寄せる陽子さんですが両足のない、幽霊みたいな私。結婚なんて考えちゃいけない≠ニ、あきらめの気持ちがありました。しかし、陽子さんのがんばって生きる姿勢が、山上さんのハートを動かします。結婚には、周囲の反対があったものの子供だって育てたい≠ニ考える、二人の意志は変わらなかったのです』
こんな、あらましでしたよね。和夫さん!」

不思議そうに和夫さんが、グルリっとまわりを見渡します。
和夫「あれっ、さっきクルマの中で聞いた女性の声だ。また、ごちゃごちゃいってるぞ」
真理「有線放送のアナウンサーと、口調がそっくりなんでしょ」
和夫「そうなんだ」
幸子「やっぱっ和夫君、耳がおかしくなっちゃったの。あなたが、変な病気になってしまったら、私、どうしよう!」

ソフトクリームのコーン部分を食べ終わった真理さんが、幸子さんをにらみつけます。
真理「幸子、いまの一言は和夫さんを自分の夫だっ≠トいってるような意味よね」
幸子「それが、どうしたの?」
真理「だったら、山上さんと陽子さんの生き方を見習った方がいいわ。この二人は、社会的なハンディキャップに立ち向かう決意をしたのよ」
幸子「恐い顔をしないでよぉ。真理のいうことは分かるけど、そんなに深い訳があっていったんじゃないのよ」

楽しいはずのドライブが幻聴≠ニいう現象で、みんな不安になっています。
和夫「真理さんも不思議な声を聞いているんだから、余計に気味が悪いよ」
真理「そうよね。今度、アナウンサーのおばさんに会ったら、きょうのできごとを話してみようっと」
幸子「妙な話はこのくらいにして…。和夫君、創作を参考にした設問って、どんなものだったの?」
和夫「もしも(あなたが)、陽子さんと同じ立場だったら愛を告白できますか≠ニ問いかけているのさ。性別に関係なく回答してもらったんだ」

設問に対し、即答したのは真理さんです。
真理「両足のない私だったとしても、愛する人に気持ちを伝えたいな」
幸子「私は、真理みたいに勇気を持てそうもないわ。結婚はあこがれで終わりそう…」
和夫「さっちゃん、それじゃぁ、俺のプロポーズも受け入れてくれないの?」
幸子「和夫君のバカっ!。いまは障害調査について話してる最中でしょ。冗談なんていえないわよ」
和夫「ゴメン、ゴメン。つい、口に出ちゃったんだ…」
真理「仲のよいお二人さんだこと。幸子と和夫さんの熱で、芝生に火がつきそうだわ」

(真理さんになぶられ)気まずい顔をしながら、和夫さんが話します。
和夫「調査データだと(陽子さんのように)愛を告白する勇気がある≠ニ答えたのは17%足らずで、5割が相手に気持ちを伝えるのは無理≠チていうんだ」
幸子「五体満足の私たちが万一、障害を背負ったとすれば、相当の挫折感が襲うでしょうね。それを、みんなが予知しているから勇気が持てないんだと思うわ」
真理「勇気があるという人は、強い精神力の持ち主ってことなのかしら?」
和夫「うーん、その人の性格によっても(考えが)変わってくるだろうね」

和夫さんの手元に調査報告書があります。春風のいたずらで、開いていたページがめくれてしまいそうです。
真理「和夫さん。少数意見はどうだったの」
和夫「少し考えたい∞相手の人柄をよく知ってから決めたい∞一概には答えられない∞直面してみないと分からない≠ネど、戸惑う回答が多かったんだ」
幸子「アンケートとはいったって、当面しない事柄について答えるのって、まごつくよね」
和夫「それからね。評論的なのもあるんだ。陽子の生き方はすばらしい∞勇気というより、ごくあたり前のことと受けとめたい≠ニいう回答も目についたよ」
真理「陽子さんの行動を、あたり前のこととして受けとめたい≠フ考えには、共感が持てる。彼女のような人を、みんなが支援してあげたいね」
幸子「こうして、みんなの意見を聞いてるうちに、私も勇気を持たなきゃいけないなって、思えてきたわ」

真理さんが、和夫さんを指さします。
真理「あっ、まだ和夫さんの考えを聞いていなかったわ。(意中の人に)プロポーズをする勇気がありますか」
和夫「俺に両足がなかったら、女の子を引き寄せる力なんてないだろう。好きな人がいても打ち明けられないよ」
幸子「あらっ、和夫君って案外、度胸がないのね。がっかりしちゃうわ。こんなことなら、ほかの男の人とつき合っちゃおうかな…」
真理「それなら、和夫さんは私の彼氏にしちゃってもいい…」
幸子「ちょっと、待ってよぉ。意気地なしの男でも、真理に取られるんだったら、やっぱり手元へおきたいね」
真理「まぁ、生意気だわ。和夫さんがかわいそう!」
和夫「さっちゃんって、優しさのある女性だと思ってたんだけどなぁ。なんだか女同士の血が騒ぐような、やばい感じがしてきた。俺、チンパンジーを見に行こうっと」

和夫さんは一人で、その場をあとにしました。残った二人は、恐ろしい目つきでにらみ合っています。園内の動物たちは、みんな仲よくしているのに見苦しいものです。
真理「あなたって、男の人の気持ちを分かっていないんじゃないの。私と二人だけなら構わないけど、彼氏の前じゃいい過ぎだと思うわ」

幸子さんが、泣き出しそうになりました。すると、真理さんはハンカチを、彼女に差し出したのです。
幸子「私がいけなかった。どうかしてたのよね。真理、ごめんね」
真理「幸子には、和夫さんという素敵な男性がいるのよ。彼を心から愛してあげなくちゃダメじゃないの」
幸子「分かった!。心配してくれて、ホントにありがとう」
真理「私、お礼をいってもらうほどのことなんかしてない。お互い様なのよ、幸子!」
幸子「和夫君に嫌われちゃったけど、素直に謝ってみようっと」
真理「チンパンジーを見に行くっていってたから、和夫さんを探してみようね」

二人は、歩きはじめました。
幸子「あっ、いた、いた。和夫くーん!」
和夫「おっ、さっちゃん。チンパンジーがバナナを食べてるよ」
幸子「さっきはゴメンナサイ!。私のこと、嫌いになった?」
和夫「何いってんだ。明るい性格のさっちゃんが大好きだ」
幸子「ホントに…。うれしいわ」
真理「やれやれ、これにて一件落着ね。めでたし、めでたし」

チンパンジーのしぐさに、微笑ましい視線が集まっていました。



第13話…「愛するって、勇気を持つことじゃない!」

たくさんな動物と出会った和夫さんたち3人は、午後3時半ころ、動物園をあとにしました。きょうは立夏。気温が一気に、30℃まであがっています。その暑さで、3人ともヘトヘトになってしまいました。
和夫さんが、マイカーのエアコンをオンにします。スイッチを入れても、生暖かな風が吹き出てきます。
真理「都会って暑いわねぇー」
幸子「きょうの気温は特別みたいよ」
和夫「半袖じゃ涼しいかなって思ったけど、そんな心配しなくてよかったんだ。もうすぐ、車内の冷房が効いてくるからな」

ハンカチを片手に、真理さんがつぶやきます。
真理「私、汗かいちゃった。こんなことなら、着替えを用意してくればよかったわ」
幸子「真理、どこかのお店に寄って(着替えを)買ってきたらどう?。それとも、私のを着けてみる?」
真理「何っ、幸子。下着を持ってきたの。残念だけど、ブラ(ブラジャー)のサイズが違うからダメね」
幸子「そんなことくらい知ってたわ」
真理「んっ、もーう。和夫さんが、興味深いみたいで聞いてるじゃないの」
和夫「俺、そういう話は関心がないから安心してください。あそこに、洋服店があるので、クルマを止めましょう」

ウィンカーを点滅させながら、クルマは道路左側に幅寄せされます。
幸子「和夫君、冷静な口調に聞こえるけど、本当は興味大≠ネんでしょ。あなたの顔に、本心が表れてる!」
真理「私たちが、あれこれ下着の話をしてるんだから、男の人が耳を傾けたりしたって仕方ないかー。そうでしょ、和夫さん」
和夫「真理さんは男心が分かるなぁ」
幸子「和夫君のエッチ!」
和夫「俺の血液はA型なんだから、Hだってどうしようもないよ!」
幸子「血液型のせいにするなんて、バカヤローっ…」
真理「二人とも仲よくしなきゃぁ。私、着替えを買ってきます」

真理さんは、路上パーキングに止まったクルマから降りると、すぐ前の洋服店へ向かいました。ちなみに、彼女たちのブラ・サイズは、小さい方から2番と3番目でした。
帰り道の途中で、3人は食事を摂ることにしました。高速道路のサービスエリアにある、レストランへ入ります。
和夫「あーっ、腹へった!。さっちゃん、真理さん、何を注文しますか?」
幸子「私、海老フライ定食にするわ」
真理「刺身定食と、デザートにチョコパフェを食べようっと」
和夫「俺は、カツ丼にラーメンといこう!」
幸子「ちょっと待って。フルーツパフェを追加するわ」
和夫「じゃぁ、食券を買ってくるよ。お金はあとから請求するので、ヨロシク!」

テーブルの窓際から、新緑の山々が見渡せます。食券を持って、和夫さんが戻ってきます。
真理「またまた、障害調査の話になっちゃうわ…。創作からの設問で、第1問は陽子さんと同じ立場だったら…?≠ナしょ。あなたが山上さんならどうしますか?≠ェ、つぎの質問よ」
幸子「障害を持つ人から、愛を告白されたケースというワケね」
和夫「その人の愛を受け入れられるか、できないかに、答えが分かれるのさ」
幸子「けどYES≠ゥNO≠ナ決めつけることって、できないと思うわ」
真理「アンケートでは、ちょっと難しい問いかけね。でもこんな場合だってあるかも…≠チていう、考えるきっかけをつくったところは、評価してもいいわ」
和夫「体の不自由な人にだって、誰かを愛したり、相手から愛される権利があるよ」
幸子「回答データではね。愛し合っていれば受け入れる≠ェ24・8%。分からない・無回答43・5%が、高い比率だったわ。戸惑ってしまった人も多かったみたい。また、12・9%が受け入れられない≠ニいうの。その他≠ノは18・8%の回答が集まったよ」

夕刻になり、店内のあちらこちらで、人の姿が見られるようになってきました。
真理「私が一番、注目しているのは少数意見なの」
幸子「愛に障害は関係ない∞相手次第≠ェ、受け入れ派の回答よ」
和夫「慎重派だと相手との関係を深めてから決めたい∞自分に経済的な余裕があれば考えてみたい=c。心情的には受け入れたいが、周囲の反対に勝てるか自信がない∞陽子の姿には心打たれるが、思いとどまるかもしれない≠アれらは、あきらめ派の方たちかな?」
幸子「同情の目で見るかもしれない≠チてのもあったよ」
真理「みんなが自分のこととして、とらえているのが分かるわ」
和夫「男性と女性では、意見の違いがあったんだろうか?」
幸子「愛を受け入れる≠ニ答えた人は、女性が男性を上回ったの。受け入れられない≠ナは、男女ともほぼ同じ比率になったのよ」
和夫「女性には、受け入れてあげたいという感情的なものが強いのかなぁ」
真理「うーん…?」
幸子「私だったら受け入れる≠チて答えたいな。その人と愛し合えるなら、一緒になってもいいわ」
真理「創作のようなできごとに、実際、直面してみたいな」
和夫「そのためには、多くの人とふれ合わなくちゃいけないよな」
幸子「障害のある人も、積極的に外へ出てきてほしいわ。愛するって、お互いが勇気を持つことじゃないかしら…」

真理さんは、テーブルに肘をついています。
真理「こういう話は一人で考えると、とっても難しい。けれど、3人が集まって意見を出し合えば勉強になるわ」
和夫「よ〜し、3人組の名前をつけよう!。俺たち障害研究隊≠セ!」
真理「いいじゃないの。でも、もう少しソフトな感じの名称はないかな」
幸子「私、このメンバーで話してるとね。つぎは何が飛び出すかなって、わくわくしてきちゃうの」
和夫「じゃぁ研究≠やめて、障害ワクワク調査隊で、どう?」
真理「われらワクワク調査隊≠ノしようよ〜」
幸子「テレビ番組のタイトルになっても、人気が出そうな名前ね」
和夫「ちょっと、待ってくれ。その名称だと、すでに使われている可能性があるから、特色を出そうよ。われら障害調査隊≠ナいこう。ワクワクを取っちゃった。さっちゃん、ごめん。!」
真理・幸子「決定!」

自分たちの名称が決まって、3人とも気合いが入っています。
幸子「ねぇー、今度はどこへ集まればいいかなぁ。いま、決めちゃったら…」
和夫「俺、新入社員なので、あまり休みが取れないんだけどなぁー」
真理「和夫さん、23日の日曜日は空いてますか? 幸子、よかったら、私の家で話そうよ」
幸子「ホント、うれしいなぁ」
和夫「なんとか都合をつけます。真理さん、俺たち2人が押しかけていって、迷惑にならないですか」
真理「余計な心配をしなくても、大丈夫よ」

それぞれ好みの食事を摂りながら、おしゃべりが続きます。定食を食べ終えたころ、注文してあったデザートがきました。
幸子「和夫君、私たちがパフェを食べるまで待っててね」
和夫「分かったよっ」

そのとき、真理さんがチョコパフェをスプーンで取ると、和夫さんの口元へ近づけたのです。
真理「和夫さん。お口、あーんして…」

無言のまま口をあけた和夫さんが、チョコパフェを一口食べました。それを見ていた幸子さんは、おもしろくありません。
幸子「和夫君、チョコパフェのお味はどうだった?。私、真理の真似なんかしないもーん」
真理「幸子さま、お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありませーん」
幸子「どういたしまして…」
和夫「チョコパフェって、思ってたよりうまいね。さぁ、食事が済んだら出発しようか」
幸子「和夫君の運転は慎重だから、安心して乗っていられるわ。帰りもがんばってね」
和夫「任せとけ!」

時刻は午後6時半、外は薄暗くなっていました。



第14話…「障害は不幸と限らない…幸福を感じるときがあるよ!」

一台のクルマが、幸子さん宅に止まりました。玄関前で待っていた彼女は、運転席の和夫さんを見ながら、助手席に乗り込みました。
彼らはきょう、真理さんの家へ遊びに行くのです。怒ったり、笑ったりしながら、活発な福祉討論が繰り広げられそうです。道草をしないで、真理さんのおうちへ向かいます。
和夫「あっ、待ってくださいよ。直行しちゃったんでは、真理さんへのお土産が買えません。まだ時間があるので、道草していこうっと…」

クルマに乗っているあいだは、お二人ともデート気分を楽しんでください。
幸子「そのお言葉にありがとうって、いいたいけれど…。なぜか、いやみっぽく聞こえてしまうのよねぇ。あっ、いけない。本音が出ちゃった」

地域では唯一の四車線道路を走ります。信号機が赤になり、クルマが停車しました。
和夫「さっちゃん、真理さんちに持っていくお土産はなんにしようかなぁ」
幸子「真理は、ケーキも好きよ」
和夫「それじゃぁ(洋菓子の)カナリヤへ寄ってみようか」

二人は駅前通りのお菓子屋さんへ入りイチゴショート≠買い求めました。
真理さんの家は、水田が隣接する住宅団地の一角にあります。小姑の立場になる彼女は、両親と兄夫婦、保育園へ通う姪の六人で生活しています。
和夫・幸子「ごめんください」

エプロン姿の真理さんが、台所から飛び出してきました。手には、生クリームがついています。どうやら、和夫さんたちのために、お菓子をつくっていたみたいです。
真理「いらっしゃい。二階へあがってください。私の部屋はちょっと狭いけど、ごめんなさいね」
幸子「おじゃまします。これ、カナリヤで買ったイチゴショートなの」
真理「わぁー、うれしい。姪がイチゴのケーキ、大好きなの。さぁ、遠慮しないであがってね」

二人は、6畳間の部屋へ案内されます。中を見渡すと、ネコやクマなど、動物のぬいぐるみが目に入ります。
和夫「俺、女の子の部屋に入ったのは、はじめてなんだ。ドキドキするよ」
幸子「あらっ和夫君。私の部屋にはお招きしなかったかしら…」
和夫「いまのところ、ご案内いただいておりませーん」
幸子「それは、失礼をいたしました。私の部屋に入ったら、心臓が止まるくらいの驚きが待っているわ」
和夫「驚きっていうのは、いったいなんだい」
幸子「あなたの写真を拡大して、壁にかけてあるのよ」
和夫「さっちゃん、そりゃぁ、ちょっと大げさだよ」
幸子「一度、お出かけくだされば、お分りいただけると思うわ」

幸子さんの話が強烈すぎたのか、和夫さんは背中を丸め、胸を手で押さえています。
和夫「子どものころ、心臓が弱いっていわれたんだ。どうも、気分が悪くなってきたー」
幸子「和夫君、大丈夫!。少し横になったほうがいいわ」

幸子さんはひざまくら≠ナ、和夫さんを休ませてあげました。そこへ、真理さんが入ってきます。
真理「お待たせしました。わっ、和夫さんどうしたの?」
幸子「気分が悪いっていうから、休ませてあげたところなの」
真理「それは大変。私のベッドで横になってください」
和夫「ご好意はありがたいのですが…。もうよくなりました」
幸子「真理のベッドじゃぁ、休めないよね。和夫君!」
真理「和夫さんったら、顔を赤くしているわ」
幸子「わーっ、おいしそうなシュークリーム。これ、真理の手づくりなの?。シューの皮をつくるのが難しいんでしょ」
和夫「お菓子づくりの上手な女性は素敵だなぁ。うまそう」
真理「なんにもないけど、ゆっくりしていってね」
和夫・幸子「いただきまーす」

三角巾をかぶったままの真理さんは、若奥様みたいです。
真理「お土産にいただいたケーキ。いま、姪の京子ちゃんがおいしそうに食べてるの」
幸子「お兄さん夫婦の子どもさんは、お一人なの?」
真理「そうなの。私の両親やお兄ちゃんは、もう一人、今度は男の子がほしいっていっているの。だけど、お嫁さんは体が弱いから、子どもを産めるかどうか分かんない」
和夫「医学の進歩が著しい今日だから、大丈夫ですよ」
真理「京子ちゃんは、1,300グラムの未熟児だったの。保育器で育ったから、元気になれたのよ」
幸子「よかったわね。医療が充分、行き届いてさえいれば問題ない。けれど、何かトラブルがあったら大変。最悪の場合、赤ちゃんに身体や知的の障害が出る恐れもあるわ」
和夫「妊婦さんも、お酒やたばこを口にするのは禁物なんだ」
真理「生まれてくる命について、私たちは知識を持たなくちゃダメよね」

動物園行きのドライブで話し合った、障害調査の話題に入ります。
和夫「アンケートの創作で登場する、山上と陽子さんはたとえ、手足のない子どもが生まれようと、精一杯の愛情を捧げたい。俺たち二人で、わが子に巣立っていける翼を与えてやりたい≠ニいっている。ここまで考えられる人は少ないだろうな」
幸子「交通事故による両足切断だと、障害を持った子どもが生まれる確立は、健康な人と同じでしょ」
真理「幸子のいう通りよね。けれど、二人のまわりには障害児が生まれるのでは…≠ニいった、誤ったとらえ方もあるんじゃないの」
和夫「また生活上の苦労が待ち受ける、結婚を選ばなくてもいい∞相手のことをよく考えてあげた方がよい≠ネどという、二人の結婚に消極的な見方の人も、案外多いんじゃないかな」
幸子「偏見に近い、人々の意識と立ち向かう山上さんと陽子さん。子どもを育てたいという意志の強さは、とっても素晴らしいわ。思わず、拍手を送りたくなっちゃった」

結婚に関心を寄せる3人は、真剣な顔つきになっています。
真理「子どもを育てたいという、山上(陽子)と同じ立場だったら、あなたはどうしますか≠フ設問があるの。データを見ていくと山上の考えと同感≠ェ54%、子どもはあきらめる≠U・4%。あと分からない・無回答≠ヘ32・3%だったの。7・3%はその他≠フ回答よ」
和夫「その他≠ノ集まった少数意見を、読み上げてみよう。(子どもが)障害を持って生まれても、それが不幸とは限らない。苦労が多くても、きっと幸福を感じるときがあると思う=Bその人との結婚自体、考えない≠竍障害児が生まれる危険があると分かれば、あきらめる=B障害のある子どもが生まれないよう努力する≠チて書いた高校生もいたよ」
幸子「(その他≠フ回答は)残念ながら、前向きな考えが少なかったみたいね」
真理「私は、山上さんと同じ考えよ。だけど、もしも(創作と)同じできごとに直面したら、迷ってしまうかもしれないわ。障害を持たないで、生まれてきてほしいと願うのが親心でしょ」
和夫「真理さん。これは、一つのケースを想定しての設問だと理解しようよ」
真理「分かったわ」

真理さんは台所へ行って、コーヒーの用意をしています。そのとき、和夫さんに向かって幸子さんが話します。
幸子「私も、早く赤ちゃんがほしい!」
和夫「そんなこといったって、明日や明後日っていうわけにはいかないよ」
幸子「もう、結婚しちゃおうかしら…」
和夫「誰と結婚するんだい」
幸子「それは、ひ・み・つ!」

二人の会話を、部屋に飾られたぬいぐるみたちが、微笑ましそうに聞いているようでした。



第15話…「親の立場から…本人同士の意志、尊重します!」

真理「おばさんのお友だちなのよー」

真理さんが姪を連れて、部屋に入ってきました。京子ちゃんは髪を編んでいて、かわいい女の子です。
京子「こんにちは」
幸子「おじゃましてます。保育園は楽しい?」
京子「うん、裕之くんと遊ぶのー」
和夫「女の子のお友だちも、たくさんいる?」
幸子「そんなこと、あたり前よねー。京子ちゃん」
京子「よく遊ぶのは、男の子たちとだ〜よ」

和夫さんと幸子さんは、不思議そうに顔を見合わせました。
和夫「じゃぁ、どんなことして遊ぶのかな」
京子「お医者さんごっこ。私が、裕之くんの体を診てあげるの」
幸子「京子ちゃんは、女医さんなのね。裕之くんのおなかに聴診器をあてるの?」
京子「うん。裕之くんたら、気持ちいいっていって喜んじゃう」
和夫「京子ちゃん、お兄ちゃんの体も診てほしいなぁ」
京子「大人はイヤ。だって、お父さんの胸を見たら、毛がはえていたもーん」
幸子「お母さんの体はどう?」
京子「おっぱいがじゃましていて、うまく診れないの」

ちょっぴりH文字が浮かんできそうな、会話になってきました。和夫さんの手が、幸子さんを指さしています。
和夫「このお姉ちゃんは、胸が小さいのでなんとかなるよ」
幸子「胸は大きくない方がいいもんねー。京子ちゃん」
真理「このあいだは裕之くん、パンツ脱いじゃったんだって…」
和夫「真っ裸になっちゃったのかー」
京子「裕之くんのおちんちん、見ちゃったよ〜」
幸子「びっくりしたでしょうね」
京子「ほかのお友だちのだって、ときどき見てるから、なんともないもん」
和夫「お風呂に入れば、お父さんのも見えちゃうよね」

京子ちゃんの目は大きくて、キラキラ輝いて見えます。どんな話でも素直に答えます。
幸子「京子ちゃんは大きくなったら、何になりたいの」
京子「保育園の先生になりたいー」
真理「花組の先生、とっても優しいのよね」
和夫「男の人は、園長先生だけかな」
京子「後藤先生がいるよー」
真理「今年から男の先生が一人、仲間入りしたんだよね」
幸子「お姉ちゃんも京子ちゃんと一緒に、保育園に行きたいなぁー」
京子「ダメー、裕之くんたちと行くの」
和夫「京子ちゃんは、裕之くんが好きなんだね」
京子「保育園のお友だち、みんな大好きだもーん」

肩をつぼめ、がっかりした様子の幸子さん…。
幸子「やっぱり、私は会社しか行くところがないのかー」
京子「お姉ちゃん、会社っておもしろくないの?」
幸子「職場には、こわーい人がいるの」
京子「かわいそう。おまわりさんを呼んで捕まえてもらえばいいよ」
幸子「うん、そうしようっと」
真理「おばさんはね、お姉ちゃんたちと同じ会社へ行っているの。こわいなーって思ちゃう人もいるけど、みんな精一杯、働いているのよ。そして、人々の暮らしをよくしてあげているの。分かる?」
和夫「難しーいお話だよねー」
京子「お姉ちゃん、おばさん、がんばってね」
幸子「ありがとう!。京子ちゃんは頭がいいわね。お姉ちゃん、驚いちゃったわ」
和夫「保育園でも、先生のお話がよーく分かるんじゃないかい」
真理「知らない歌だって京子ちゃんだったら、二回くらい聞けば歌えちゃう≠チて、先生がいってたわ」
京子「犬のおまわりさん≠ニかチューリップの歌≠熄Kったよ」
幸子「すごいわねぇー。犬のおまわりさん≠歌ってほしいなぁー」
和夫「お兄ちゃんも聞きたいよー」

京子ちゃんの澄んだ歌声が、部屋中にこだまします。
京子「♪まいごのまいごのこねこちゃん、こねこのおうちはどこですか…」
幸子「じょうず、じょうず、よかったわ」
和夫「うまいぞー、京子ちゃん。将来はアイドル歌手だよ」
幸子「一生懸命歌ったから、のどが乾いたでしょう。コーヒー飲む?。私、手をつけてないの」
真理「幸子、遠慮しないで飲んで…。京子ちゃんには、ジュースをあげる。茶の間へ行こうね」
京子「お兄ちゃん、お姉ちゃん、バイバーイ!」
和夫「裕之くんにヨロシク!。仲よく遊ぶんだよ」
幸子「また遊びにくるからね。元気でね」
真理「ちょっと待っててね。二人とも、何か食べててよ」

障害調査隊のメンバー(和夫さん・幸子さん・真理さん)は、京子ちゃんと一緒に、楽しい会話をしました。みんな、子どもが好きなみたいです。
2、3分くらいたって、真理さんが戻ってきました。あわててきたのか、少し息が荒くなっていました。
真理「お騒がせしました。子どもと話すって、疲れるでしょう。京子も、お兄ちゃんやお姉ちゃんと話せて、うれしかったみたい」
幸子「真理は、かわいい姪と暮らせて幸せね」
真理「表は幸子のいう通りだけど、裏では小姑の立場。結構、気を使っているのよ」
和夫「なかなか大変なんですねぇー。家族のまとまりという面で、真理さんは俺たちの先輩だね」

真理さんは、和夫さんと幸子さんから目をそらします。
真理「褒め言葉はやめて…。話題を変えてよー。障害調査について、話そうじゃない」
和夫「そうするかー」
幸子「さあ、いくわよ。たとえば、息子さんや娘さんから、障害を持つ人と結婚したいといわれたら、どうしますか?≠チていう設問です。結果は話し合ったうえで、本人の意志を尊重する31・9%、23・9%が本人同士の気持ちを大切にしたい≠ニなったの。戸惑いもあるだろうけど、全体の半数が、子どもの結婚に前向きであることが分かったわ」
和夫「結婚に反対≠ニいうのは4・5%だったんだ。(全体の)3割ほどは、NO(反対)って答えると思っていたんだけど、ちょっと意外な数字だなぁ」
真理「年ごろの子どもさんを持つ、50・60歳代の人には、わずかながら少数意見が目立ったわ。その内容は結婚について、わが子を心から愛しほめてやりたい∞相手が身障者であれば支援していきたいが、精神障害者との結婚には反対する∞親としての自分が、試される場だと思う∞子どもがその人の障害を支え、包み込むような力があったなら、うれしい≠ニいう内容なのよ。否定的なものは設問のような場面が来ないようにと思ってしまう∞子どもの結婚相手は、健康な人であってほしい≠ェ、目につきました」
幸子「(少数意見は)率直な回答が多かったじゃあない。みんな、よく考えて答えたのね」

障害調査隊が、差別意識に突っ込んでいきます。
和夫「身障者なら支援するが、精神障害者は反対だ≠フ考えは、きっと、子孫への遺伝を心配しているのだろうね」
幸子「精神障害者だからといって、差別するのはよくないわ。でも、結婚になると深刻な問題が絡んでくるのね」
真理「このケースは、子どもをつくらなければいいのよ。夫婦だけの生活だったら、何も支障ないと思うわ」
和夫「子どもの結婚相手は、健康な人であってほしい≠チて、素直な答えだと思う。親は子どもの幸せを願っている。だからこそ、元気な赤ちゃんの誕生を望むんじゃないだろうか」
幸子「遺伝などの理由から、赤ちゃんをつくれない結婚には、賛成したくないっていう、心理があるんじゃないの」
真理「本当に難しいー。本人同士がいいと思えば、親は理解を示すべきじゃないかしら」
和夫「結婚は二人が、ともに生活すること…。これが基本だろうな」
幸子「けど、私が精神障害の人と一緒になるっていったら、両親は反対するでしょうね」
真理「突然の話なら、私の場合だって同じよ」
和夫「一般には触れられにくい、こうした事柄について、意見を出し合えるチャンスが増えるといいな」
幸子「そうよねぇー。今度、会社の有志でも福祉討論会≠やろうじゃないの。ねぇー、真理」
真理「幸子たらっ、思い切った発想をしちゃって…」

和夫さんと幸子さんが、玄関に立ちます。二人は真理さんの家で採れた野菜を、お土産にもらいました。
和夫「じゃぁ、長い時間お邪魔しました」
幸子「ご家族の皆様に、よろしくね」
真理「また、遊びにきてくださいね。幸子、明日、会社でね!」

真理さんは、和夫さんのクルマが見えなくなるまで、手を振っていました。


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