われら障害調査隊

も く じ
はじめに・出会い・教育 社会参加 ボランティア 愛を育む 私たちの障害・福祉論

はじめに
脳性まひ後遺症を持つ私の、さり気ない問いかけ…、
「まわりの人たちは、障害をどうとらえているのだろう…」
が、きっかけとなって、1994年(平成6年)独自調査に取り組みました。
「障害・福祉の課題は、人々の意識と関連がある…」
といった点に着目し、出会い・教育・就労・結婚の分野で、一般の方々を中心に問題提起しました。
調査箱を開けると、ノーマライゼーション(ノーマル福祉。高齢者や障害者は施設に隔離せず、一緒に暮らすのが当然とする考え方)の浸透を確認することができました。しかし、お互い(地域のみなさんと障害を持つ人)の距離は縮まったといい切れず、接触のチャンスを生かせないでいる実態が、浮き彫りになったのです。
本書は、架空の若者3人(われら障害調査隊)に登場してもらい、調査結果を紹介するとともに、彼らの考えや(回答に関した)評論を収めています。普通の若者が、人々との出会いの中から、障害・福祉を学び、人の意識という未知の世界に挑むストーリーです。
年齢を問わず、多くの読者に親しみを持っていただけたなら、うれしく思います。
2001年8月
著者・マナくん

われら障害調査隊<<塔oー紹介

井上真理(いのうえまり)
OL(自動車部品製造会社事務員)
自分から進んで、社長に車椅子社員の話を持ちかけるなど、度胸が売り物。彼氏募集中なのだけれど、和夫さんに片思い。
6人家族の小姑さん。
(【社会参加】第4話から登場)

遠藤和夫(えんどうかずお)
大学生(のちに会社員)
まじめな性格で、冗談はちょっぴり苦手。Hっぽい話には乗りやすい。幸子さんとは、高校時代のクラスメート。
いまどき珍しい、農家に下宿をする。サラリーマンになってからは、アパートで一人暮らし。

川上幸子(かわかみさちこ)
OL(自動車部品製造会社事務員)
メンバーの中では、もっとも理想的な福祉観の持ち主。
和夫さんを彼氏と意識する。ささいなことで、いつも真理さんといい争ってしまうデリケートな神経も露呈。
(3人の年齢は、ともに20歳代前半)
五十音順

【出会い・教育】

第1話…「出会いの機会、生かしているのかな?」


和夫さんと幸子さんは、高校時代の同級生です。二人は、ボランティア活動に参加するなど、福祉に関心を持っています。
役所・小学校・商店街の建ち並ぶ中に、図書館があります。辞書や資料がある一室のデスクで、たまたま、彼と彼女は一緒になりました。
幸子「あらっ、和夫君!」
和夫「よぉっ、さっちゃんじゃないか。会社は…?」
幸子「きょうは、お休みをもらちゃったのよ。有・給・休・暇…!」
和夫「OLさんはいいよなぁ…」
幸子「そういうけど、大変なのよ。お茶くみ≠ネんか、女の仕事っていう雰囲気だしね。結局、私たちOLがやらなくちゃならないの」
和夫「家事を分担する夫婦が増えているっていうけど、オフィスの男女共生≠ヘほど遠いようだね」
幸子「和夫君だったら、会社でお茶くみ≠キる?」
和夫「(会社へ入ったら)俺、なんだってやるよ」
幸子「トイレ掃除もよ。でも、男子トイレだけでいいわ」
和夫「はい、はい。分かりました!」

そのうち二人は、障害に関する意識調査の結果へと、話を変えていきます。
和夫「新聞に出ていたけど、脳性まひの西原さんが行ったアンケートのこと知ってる?」
幸子「もちろん、紹介記事を読んだわ。私、機会があればぜひ、報告書を読みたいと思っているの」
和夫「そのリポートをいま、持っているんだ。いろいろな形のグラフを使って、詳しく書いてあるよ」
幸子「ねぇー和夫君、それっ、私にも見せて!」

和夫さんは、カバンの中から報告書を出して、彼女に渡しました。
幸子「あっ、これね。レイアウトがよくできていて、見やすい資料だわ!」
和夫「回答率66・9%(1,400人に対し937人)で、調査地域は全国におよんだという。性別を見ると、男性48%、女性51・5%となってる(不明は0・5%)」
幸子「調査票の依頼・回収はね。知人から(郵送経由の)協力を得たほか、西原さんが改造自動車を運転して、地域の会社・役所・学校・福祉施設を奔走したそうよ」
和夫「(回答者の)職業内訳を見たら、アルバイト・医師・税理士・農業・仏教関係や放送局スタッフっていうのも含まれてたな!」
幸子「中学生から60歳代までが、回答者なのね。(リポートは)幅広い年齢層を考慮して、年代別のデータも載せてあるわ」
和夫「西原さんが考えたという、設問のひとつ一つは、障害・福祉の課題に、真っ向から突っ込んでいる」

調査のあらましを確認し合った二人は、さらに話を続けます。
幸子「設問に対しての、回答データが気になるわ。まず第一問は障害を持つ人と話をしたことがありますか?≠ニ、尋ねているの。その結果、78・5%の人がはい≠ニ、答えた。お互いに、ふれ合うチャンスが、増えてきているのかしら?」
和夫「そうだろうな。けど障害を持つ知人や友人がいる≠ニいう人は、全体の半分にとどまっている。内訳を見ると、なぜか父親・母親・兄弟・(自分の)子供・いとこ≠ネど親族が多い。みんな、友だちになれるチャンスを、生かそうとしていないのかも知れないね」

何か思いついたかのように、幸子さんは和夫さんを見ます。
幸子「和夫君、明美さんとは友だちでしょ。彼女には知的障害があるけど、人懐っこくて明るい性格の人よね。さっきの質問(障害を持つ人と話をしたことがありますか)ではい≠ニ答えた人に、そのとき、どんな印象を持ったか、聞いているの。データだと私たちと変わらない・特別な印象は受けなかった≠ェ36・5%で、最も多かったのよ。少しずつ、障害への理解が深まってきているんでしょうね」
和夫「さっちゃんのいう通りだ。明美さんは、普通の女の子と変わらない。いや、それ以上に素直なところもあるし、魅力的だな」
幸子「ふっん、明美さんと比べたら、私なんか、ありふれた女よ!」
和夫「やけるなよ。さっちゃんらしくないぞ」

機嫌が悪くなってしまった幸子さんですが、気持ちを入れ替えようとします。
幸子「中学・高校生の中には、ハンディのある人の印象について障害があってかわいそう≠ニか違和感があった≠チて、回答しているの。彼らには、まだ外見的なとらえ方が多いのかも知れない。私たちの年齢層にだって恐い感じがするけど、かわいそう≠竍はじめは緊張した≠ニ、書いた人もいる…。やっぱり、理解度もまちまちという傾向かなぁ」

二人の会話が、少し途切れてしまいました。考え込んでしまった様子…。
やがて、和夫さんの口から言葉が出ました。
和夫「理解の違いは、それぞれの家庭環境や性格なども影響しているのかな。それでも個々の立場で、分かち合う気持ちが芽生えてきてると思うんだ!」
幸子「いいこというじゃん…」
和夫「あっ、タイムぎりぎりだ。キャンパスへ戻らないといけない。さっちゃん、この話の続きは、またにしよう。会う場所と時間、ケイタイで連絡するよ」

和夫さんは駆け足で、図書館をあとにして行きました。



第2話…「物珍しい目で見てるって感じなの…」

ケイタイで約束した通り幸子さんは、雨の日曜日、和夫さんの下宿先を訪ねました。兼業農家の2階に、彼は一つの部屋を借りています。イチゴや野菜の栽培をしているお宅です。
幸子「ごめんください。遠藤和夫さんにお会いしたいのですが…」

奥から、小学3年生の女の子が出てきて、
「和夫お兄ちゃん、お客さんだよ」
と、階段に向かって叫びました。すると足音が聞こえて、2階から和夫さんが姿を見せました。
和夫「よぉっ、さっちゃん、さあ、上がりな」
幸子「うんっ。おじゃましまーす」

和夫さんは、この家の女の子に、
「美加ちゃん、ありがとう。友だちが遊びにきましたって、お母さんに伝えてくれるかな」
といったあと、自分の部屋に幸子さんを案内したのです。
幸子「見晴らしのよい部屋じゃない。勉強の能率も上がりそうな環境だわ」
和夫「雄大な山を見ていると、心が落ち着くもんだな」
幸子「部屋の中、きれいに片づいているじゃん。私、びっくりしちゃった」
和夫「(この部屋へ)若い女性に入ってもらうのは、さっちゃんがはじめてなんだよ」
幸子「あらっ、ホントかしら?」
和夫「ウソじゃないぜ」

窓際にある勉強机のイスにすわった幸子さんが、話しはじめます。
幸子「ところでね。3日前、風変わりな場面を目撃したの」
和夫「何のこと?」
幸子「小学校の通学路を、松葉杖の人が歩いていたのよ。そこへ、帰りの小学生数人がきて、手足が不自由なその人をじっと見ているの。汗を流しながら一所懸命、杖をついている姿に、子どもたちは行ってきました≠チて、あいさつもしなかった」

うーん…≠ニいう声とともに、和夫さんは首を傾げます。
和夫「朝や帰り、あいさつをしないで通り過ぎる子どもは、たまに見かけるよ」
幸子「そうじゃなくてね…、子どもたちの行動が少しおかしいのよ。なんだか(松葉杖の人を)物珍しい目で見てるような感じなの」
和夫「町には養護学校があるので、小学校との交流も行われているだろっ。子どもたちだって、体の不自由な人がいるってことくらい、知っているはずだよ」
幸子「私、建物の陰に隠れて、子どもたちの様子を見てた。しばらくして、中学生が駆けてきたの。そしたら、彼らは松葉杖の人から離れて、逃げるように走って行ったわ」
和夫「さっちゃんの話を聞いていると、子ども同士のいじめを連想してしまうな」

現場の様子を分かりやすく説明しようと、幸子さんは必死です。
幸子「うーん。いじめではないけど、体の不自由な人を見ると、自分より劣っているとか、おもしろ半分で騒ぎたくなる子どもがいるみたい…」
和夫「つまり、さっちゃんが見た風変わりな場面≠ニは、交流教育など教師のいる前では、現れにくい光景というわけなんだね」
幸子「すぐそばにいて、子どもたちに注意できなかった私…。反省しています。松葉杖の人、きっと嫌な思いをしたでしょうね」

重苦しい雰囲気を払うかのように立ち上がった和夫さんは、調査リポートを手にしました。
和夫「西原さんの障害調査でも、健康な子どもたちの理解の乏しさ≠ェ結果に出ているよ。子どもたちは、ハンディに理解を示しているか≠ニ質問したところ存在は知っていてもよく分かっていない∞理解のある子と、そうでない児童もいる≠ェ、あわせて62・2%となったんだ」
幸子「実態、そのものかも知れないわ」
和夫「いまの教育方法では、理解せよという方が無理だ∞障害児との接触に、戸惑っている子どもが多いのでは…≠ネどの、意見もあった。また、クラスに障害児がいる場合子どもたちは、できることがあれば助けてあげたいと、思っているようだ≠ニいった、回答も寄せられていた…」
幸子「お互いに、ふれ合うチャンスを増やさなくちゃいけないのね」
和夫「そのために何が必要か、という設問では学校間で交流の機会を増やす≠ェ47・6%、つづいて将来はすべての子供が、同じ学校で学ぶのがよい41・6%の順になっている」
幸子「共生の社会を目指して、みんなが考えていきたい課題だわ」

美加ちゃんのお母さんが、採ったばかりのイチゴとお菓子を持ってきました。
お母さん「遠藤君に、可愛いガールフレンドがいるなんて知らなかったわ」
和夫「彼女は高校の同級生で、川上幸子さん」
幸子「はじめまして、川上です」
お母さん「女性は恋をしているときが一番、美しいのよね」
和夫「おばさんもなかなかいうね。さっちゃん、顔が赤くなっちゃったぞ」
お母さん「ごめんなさい。じゃ、ごゆっくりと…」
幸子「ありがとうございます」

いつの間にか、雨はやんでいました。



第3話…「みんなと一緒に遊ぶ、社会にしたいな…」

和夫さんの下宿を訪ねた幸子さん。二人の話は、まだまだ続きます。
まじめな話題を語り合うカップルなんて、珍しいかも知れません。けれど、彼と彼女は障害・福祉について、真剣に考え討論していきます。

美加ちゃんのお母さんが出してくれたイチゴを、幸子さんが頬張りました。
幸子「甘酸っぱいね、このイチゴ!」
和夫「天然イチゴに近い味がするだろっ。生産者のみなさんは、よりおいしい野菜やくだものの栽培に、汗を流しているんだ」
幸子「見ただけだと、真っ赤で大きなのに飛びついちゃう。けど、そういうのって、甘さや酸っぱさで、いまひとつ物足りないときがあるわ」
和夫「顔じゃないよ、心だよ≠ニいう言葉があるけど、この場合は色や形じゃないんだよ、味なんだ≠ニなるのかな?」
幸子「私だって、和夫君のハートに引かれたんだからね」
和夫「ホントかな。俺なんか、ハンサムボーイじゃないし…。お世辞はよせよな」
幸子「まっあ、お・世・辞ですって…。本心でいってあげたのよ!」

あっという間に、テーブルのお菓子がなくなってしまいました。ダイエットに心がけている幸子さんなのに、この調子だと痩せられそうもないでしょう。
湯飲みのお茶を、グイッと飲んだ和夫さんは、再び調査結果の話を出してきました。
和夫「さっきの話だけど、障害を理解できていない子どもが多いというデータが出ただろっ。俺が思うに、彼らは体の不自由な人のことを、よく知らないのではないかな」
幸子「子どもばかりじゃない。障害を持つ人と接するチャンスが少ない大人だって、案外、理解していないと思うわ」
和夫「ただ知らないだけなのに、誤った見解をしてしまう場合があるよな。恐ろしいことだよ」
幸子「何でも疑問を抱く≠ニいう点では、子どもの純粋な心が見えるわ。もしかしたら、福祉について、分かっているようなふりの私たちより、感受性がある彼らの方が、理解が早いのではないかしら…」
和夫「さっちゃんのいう通りだ」

お茶を口に含んだ幸子さんが、リポートを手にします。
幸子「(調査で)子どもから障害者って、どういう人なの≠ニ問いかけられたら、どんな説明をするかっていう、設問があったでしょ」
和夫「1位に病気や事故で、体が不自由になった人だよ≠ェあがった。比率は35・8%」
幸子「つぎがハンディはあっても、みんな同じ人間なんだ11・4%個々の障害について、分かっている範囲で説明する≠Q%障害を背負ったのは、その人の責任・意でないことを説きたい≠P・2%の順になった」
和夫「分からない・無回答は、35・3%。記述で答えを求めたのと、日ごろ予知していない仮定の質問であったから、多くの回答が得られなかったのかも…」

データを、慎重に分析しようとする和夫さん。幸子さんの声にも力がこもります。
幸子「少数の意見はね。基本的人権について説明する∞こちらから問い直し、子どもの話によって補足や訂正する∞子どもの年齢に応じて説明する=c。説明ができない≠フ記述もあったわ」
和夫「中には、よく考えて回答した人もいたんだ」
幸子「だけどね。事実を知らない方がよい∞いまの子どもは、このような問いかけはしないと思う≠ニいうのは、実態を知る人の回答とは思えない」
和夫「人それぞれに意見が違うって、解釈しようよ」
幸子「そうね!」
和夫「もう一つは自分の子どもが、障害のある子と遊んでいたら、どのような言葉をかけますか?≠チていう質問だ」
幸子「トップが何もいわず見守りたい23・8%仲よく遊びなさいという≠ヘ、21%だったわ」
和夫「どこにいても、健康な子どもと障害のある子、みんなが一緒に遊んでる光景が見られる、社会にしたいものだよ」
幸子「そうするには、まず、一人ひとりの意識改革が第一よね」

幸子さんが、腕時計を見ました。
幸子「あっ、3時間も話し込んじゃった。和夫君、私、帰る」
和夫「土・日なら下宿にいるからさ。また遊びにおいでよ」
幸子「うんっ。ありがとう」

あたりは薄暗くなって、美加ちゃんのお母さんが庭で、忙しく動き回っていました。
幸子「長い時間、おじゃましました」
お母さん「いつでも遊びにきてくださいね。遠藤君、暗くなってきたから、川上さんを駅まで送ってやりなさい。彼女に万一のことがあったら大変でしょ」
和夫「あのー万一≠チて、なんですか?」
お母さん「帰り道で彼女が男に襲われたら、どうすんの」
和夫「はい、分かりました。おばさんのワンマン≠ノは、頭が下がります」
お母さん「何かいった、遠藤君!」
幸子「失礼します」

和夫さんと幸子さんは、駅へ向かいました。


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