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(50)金あるかっ?
 独身時代、つきあっていた彼女が何かを買う予定があると云った。ちょうど2,3万円持ち合わせがあったので、恰好つけて「じゃあ、これで買っておけよ」と1万円渡した。彼女は「いいわよ、そんなの」と云ったが、「まぁいいから、いいから」と押しつけた。

 1週間ほど経って、夕食のデートに誘った。恰好つけて行き先は1流ホテルの最上階、世の中が見渡せる高級レストラン。「そんなもったいない」という彼女に、「なぁに、大したことはない」と大見得を切った。なにせ財布の中には大枚1万円が入っているのだ。いくら高級レストランでも二人だったらお釣りが来る(数十年むかしの話しだかんね(^^; )。

 彼女の家まで車で迎えに行き、ホテルへ向かった。夜景の見えるガラス張りのエレベータに乗って最上階へ。蝶ネクタイのボーイさんに迎えられて席に着いた。あれこれ注文が終わり、ウェイターが「かしこまりました」と言ってさがった。その後ろ姿を何気なく見送った途端、重大なことを思い出した。

 昨晩、ある買い物をした時、最後の千円札を使ってしまったのだ。そしてまだ有る筈の1万円は、1週間前に彼女にやってしまっている。(~0~) もちろんその時代、カードなんて便利なものは1枚も持っていない。要するに文無しなのだ。。。。

 すぐにウェイターのあとを追っかけて注文を取り消し、直ちに退散しようと思ったけど、何もしらずにニコニコしている彼女の手前、そんなみっともない事もできない....(T_T) 途端に胃酸がノドにこみ上げてきて食欲どころの騒ぎではない。もう頭は完全にパニック、顔色は真っ青。すると彼女が「どうしたの? 変な顔して・・・」
「いや、何でもない」と答えるうち、ご注文の赤ワインが.....とても飲む気にもならず悩んでいるうちに、ふと思いついた。

「おひ。先日、1万円渡しただろう」
「うん」
「もう、つかったか?」
「ううん」
「いま持ってるか?」
「うん」
よこせっ!」(*_*;

 いやあ、あのときのワインは絶品だった。それ以来、女房に頭が上がりませしぇ〜ん。

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