Free talk 雑談
(48)牛丼 2
 少し以前の話。まだ夜も明け知らぬ時間帯、上前津というところで、吉○屋に入った。ひょいと座ったカウンターの向こう側に先客が3人いた。

 「何にしましょう」との声に、「並」と応える。応えてからふと前をみると、先客3人のうち、2人はチンピラ同士の二人連れ・・・・。一人は二十歳前くらいで、もう一人は25前後。年下の方が年上をさかんに「兄貴、兄貴」と呼んでいる。目の前にいるから、いやでも応でも話の内容は聞こえてくる。

「でね、兄貴。ワシ、兄貴がイケ云うたら、いつでもイキますけん。ワシ、覚悟できとりますけん」
「だから、それは分ったって。そのときが来たら、必ず云うといっとるだろっ」
「へぇ、兄貴、ホントにいつでもイケ云うてください」

 そんな話の最中に牛丼が届いたが、胸くそが悪くて味がしなんだ。内心、(食べ終わってるなら、サッサと出て行けばいいのに。広島でもあるまいに何が「イキますけん」だ)などと思いながら、 一口二口と砂をかむ。そうこうしているうちに、お客がもう一人入ってきた。何気なく見ると、制服を来た40才くらいのタクシーの運転手さん。何も知らずにチンピラの近くに座り(~0~)、帽子をカウンターに置きながら牛丼を注文した。

 すぐ牛丼が来て運転手も食べ出した頃、チンピラ二人も席を立ち、店を出た。やれやれこれでうっとおしい話を聞かなくてすむと思い、少し気分がやわらいだ。と、思った数十秒後、店のドアがバァーンと開いて、先ほどの“イキますけん”が飛び込んできた。(お、さっきの?)と思うまもなく「表のタクシーの運転手はどいつだーっ!」と怒鳴った。

「どいつだーっ!」といっても、該当者は一人しかいない。くだんの運転手がビックリしながら、「えっえっ、わたしですが・・・」と応えると、
客が来とるぞっ、サッサと車だせえっ!
「いえ、あの、今わたし食事中なので・・・」
なにおぅ貴様ぁ、乗車拒否するのかぁ!
「いや、そういうわけでは・・・」
だったらサッサと来んかぁ、貴様ぁ」と云いながら、運転手の方へ一歩踏み出す。

 もうびっくり仰天した運転手、カウンターの帽子を手に取り、口をモグモグさせながらあたふたと店を出ていった。その後を“イキますけん”が追いかける。。。。振り返って店の外をみると黄色っぽいタクシーのそばに兄貴が立っていた。そしてタクシーは二人を乗せて走り去った。後には食べかけの牛丼と、代金をもらい損ねた吉○屋の店長の姿が。。。。

 胸くそ悪い思い出だが、いつまで経っても忘れらん・・・・

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