先日の夕方、急にウイスキーが飲みたくなった。家人に聞くと、在庫はないという。仕方ないので木枯らしの吹くなか、ふるえながら近所の酒屋まででかけた。酒屋の横にタバコ自販機がある。その自販機の窓ガラスに、中年の男性がペタペタとステッカーを貼っている。
(またタバコが値上げになるのか)と思って、何気なく声を掛けた。すると「いえ、パッケージのデザインが変更になるだけです」という。なんでもデザインを変更するだけで売り上げがずいぶんと違ってくるそうな。そこで「たしかに最近はデザインもカラフルだし、軽いモノが多くなったね」などと、どうでもいいお世辞を云った。すると
「そ〜なんですよ、川崎さん。むかしは20ミリ30ミリなんて当たり前だったんですが、今じゃあ10ミリでも強いという時代ですから」
「なるへそ、たしかに最近は洋モクも1ミリなんてのが多いね」
「ええ、もう1ミリなんて洋モクとの激戦区です」
「そうかぁ....そいじゃあいっそのこと0ミリってのを作ったらどうだ」
「いや、0ミリじゃぁ、タバコじゃなくなってしまいます」
「そいじゃあ、0.5ミリってのはどうだ」
「それもダメです」
「どちて?」
「規則でニコチンタールの含有量は四捨五入で表記することになってるんです。そこで0.5ミリだったら、やっぱり1ミリって表記することになるんですよ」
「ふ〜ん」
「たとえばこの○○と△△、じっさいは1.3ミリと0.9ミリですけど両方とも1ミリってことになってるんです」
「ほ〜う」と生返事したとき、天啓が閃いた。
「ほいじゃあ0.4ミリってのを作ればいいじゃないか」
「はぁ?」
「0.4なら四捨五入で0って書くことになるだろう。でもほんとは0じゃないからりっぱなタバコだ」
「な〜るほど」
「ゼロというのはインパクトあるから、売れると思うぞ。これを称してソフトバンク方式という」
「でもユーザーやマスコミなどからインチキだって云われないですかねぇ」
「な〜にを云ってる。ソフトバンクみたいに恣意的じゃない。規則にしたがって0とするんだから何の問題もない」
「いやあ、ありがとうございました。さっそく戻って“お客さんからの要望”として提案してみます」
「うむ、よきにはからえ」
というわけで、来年の夏には「マイルドセブン スーパー0」という銘柄が誕生する?。
|