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    (159)地上の楽園


  40年ほど前、高校の教諭であったK田先生という人と親しくしていた。このK田先生、ちょうど北朝鮮帰還事業が話題になっていたころ、突然「俺は北朝鮮に行く」と言い出した。こちとら、「はぁ?」と口をあんぐりさせるだけ。

 それでも「なんで、そんなところへ?」と聞くと、
お前達は知らんだろうが、北朝鮮は地上の楽園だ

「なにそれ?」
「地上の楽園というのはなぁ、身分差別が無くて、国民のみんなが協力しあって暮らして行く国のことだよ」

「ふ〜ん、なんかよく分からんけど、先生は朝鮮人だったのか」
「いんや、日本人だ」
「日本人でも行けるの?」
「うん、女房が朝鮮人だ」
「ふ〜ん、それで朝鮮に行って何するの?」
「俺は地上の楽園を目指してる国で、教師として協力したい」
「ふ〜ん....」

 地上の楽園がどうのこうのと云われても、こっちは何も分からない。話はそれで終わってしまった。

 それから半年くらい経ってから、先生は高校を辞めた。連絡を取り合っていたわけではないから、辞めた後のことは知らない。でも高校を辞めるくらいだから、望み通り北朝鮮へ行ったんだと思う。

 それから数十年、北朝鮮関連の報道があるたびに先生の事を思い出すことはあったが、それだけのこと。

 しかし最近の報道を見ていると、地上の楽園とは裏腹の状態。(先生、どうしているんかなぁ)と、前より切実に思い出す。

 

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