街角の薔薇
ある年の薔薇の季節の夕刊に、こんな記事が載った。
「真っ赤なバラ もうすぐ別れ」 街角見つめ30年
記事の脇には、屋根よりも高い赤い薔薇の下で、犬を抱いて微笑む男女3人の写真が載っている。
そして、こんなふうに書かれていた。
池袋の街角に、30年余り愛されてきた大きなバラの木がある。
高さ7〜8メートル。文房具店の壁や電柱を支えに空へとおおらかに
伸ばした枝に今、遠目にも鮮やかな赤い花が咲き誇る。
でも、店が閉められることになり、もうすぐ切られる運命だ。
近くの花屋さんからもらったその薔薇は植木鉢代わりのバケツを破り
盛り土をしたアスファルトの下に潜り込んでいるらしい。
気がついた時に肥料をやる程度で、日当たりや風通しがいいのか
虫もたいしてつかないそうだ。
一年を通して花がポツポツ咲くが、ピークはこの時期。
満開を過ぎると道路わきに赤い花びらが敷き詰められた。
さまざまな人々がこのバラを見上げた。
近所の人、この道を通う幼稚園児、
近くの病院から車いすで訪れた入院患者、
飲み屋帰りのサラリーマン、
そして学習帳や鉛筆を買いにくる子供たち。
交通量の多い小さな四つ角だが、事故は一度も起きていないという。
「みんないったん花に足を止めるから、
飛び出したりしないのかもしれませんね。」
・・・・・・・・・・・
ああ、私と同じおもいの人がたくさんいるんだ。
そんな気持ちでいっぱいになった。
きっとたくさんの人たちがその薔薇が咲くのを楽しみにしていたのだろう。
薔薇に魅せられ、自転車で街中をうろついて薔薇を探し回っていた私は
この記事に感激してしまった。
(薔薇好き故の思いこみもかなりあるのか?)
街角で真っ赤に咲く薔薇を人は仰ぎ見ずにはいられない。
それも30年ものの薔薇である。
入院していた人はどんな想いでこの薔薇を見上げたのだろうか・・・
見上げた子供たちの記憶にこの薔薇は残るのだろうか・・・・
さなざまな街の人々を見つめてきたその薔薇は
残念なことに、惜しまれながらも切られてしまう。
しかし、切った枝は、挿木をしたいという近所に人にも分けられたそうだ。
きっといつの日か、同じ薔薇が街角を彩ってくれる日が来ると信じていたい。
そして、前と同じように人々の心を和ませてくれることだろう。
「美しい自然や花を見ることで、人の心が浄められる」
そんな言葉を聞いたことがある。
人は街角の薔薇に足を止め、
その薔薇を仰ぎ見て、何をおもったのだろうか・・・
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