ヘリテイジの花芯
軽井沢タリアセンに行ったときの事・・・

まだひと気のない静かな軽井沢に、薔薇は見事に満開だった。
バラ園で作業をしている方や、近くの薔薇好きの方にもお話を伺い、
とても楽しい時間をすごす事ができた。
お礼をいい、そろそろ帰ろうとすると

「これ持ってって。」
と、作業とされている方に一輪の薔薇を差し出された。

「え、でも皆さんに見ていただいた方が・・・」
と辞退すると
「いいの、いいの、この薔薇は首が折れているし、もう花も終わりだから」 との事・・・・
優しい方です。(^^
喜んで薔薇を頂いた。
薔薇の名前は「ヘリテイジ」
香りは甘く爽やかで、さすが香りがいいので有名な薔薇。

ウキウキと香りをかぎながら、駐車場に向かい
車に乗ろうとしたとたん!
ちょっとしたはずみで薔薇の花びらがばらばらと散ってしまった・・・
あああ・・・・・
せっかくもらったのに・・・ヘリテイジ・・・
・・・花も終わりだと言ってたっけ・・・
花持ちが悪いというのも特徴だったなぁ。
まだ、きれいだったのに・・・
残念に思ったけれど、仕方がない。
私は未練がましくダッシュボードの上に、花びらと茎をおいた。


それからしばらく、薔薇のことは忘れていた。


ある日、久しぶりに車に乗ると
ダッシュボードの上の花びらは茶色くなって縮れていた。
花びらをゴミ箱に捨て・・・
ふと、、茶色くなった花芯の香りをかいでみた。
すると、それはなんとあの時のまま!
少し枯れた感じはあるが、充分よい香りだった。
私の脳裏にタリアセンのバラ園がよみがえった。


それからというもの・・・
私は車に乗ると、必ずヘリテイジの花芯をかぐようになった。
乗り込んだとき確認するように・・・
ふと思いつくと信号待ちの時だったり・・・
香りは段々甘い香りに変化していくようだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

薔薇の香りにこだわっていた鈴木省三氏のことを思い出していた。
「バラに香りがなかったら、バラじゃない」
香りにこだわり、いかにいい香りのバラを生み出せるか研究したという。
薔薇の香りの強いのは、花芯と花びらの付け根だったっけ。
確かに香りのない薔薇は、アンコの入っていないお饅頭みたいだ・・・

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茶色の花芯を鼻に押し付け、私は脳内にα波を満たした。
ハタから見たらどんな風に映っていたんだろう・・・
とは思うが・・・そんな事はどうでもいい。
ヘリテイジの花芯は、充分私を楽しませてくれた。

密閉された車の中だったからだろうか
ヘリテイジの香りを感じなくなったのは、
空気が冷たくなってきた秋の初めだった。








Heritage
(Austin1984)