■鬼刃〜オニノヤイバ〜■

■宝剣■
  綺羅という少年。
 彼の話は実に興味深いものだった。

 僕がここへきた経緯を一通り話終えるまで、彼は興味深そうにじっと僕の声に耳を傾けていた。
 ……。
 というか、勝手に僕がしゃべったという気もしないでもない。
 だって、「ヤレヤレ」の後の沈黙がコワかったんだもんっ!!
 というのはさておき。
 彼もまた僕にぽつぽつと語りはじめた。
 彼がどうしてこんなところにいるのか。
 さっきのバケモノは一体なんだったのか。
 そして……。
 なぜ彼の中、彼の心の中はこんなにも苦しく、痛みに満ちているのかを……。

 どうやら彼も"この世界"の住人ではないということだった。
 SFならまだしも、こんな昔の日本(?)のような土地で他次元からやってきたって言われてもなぁ……。
 彼の暮らしていた世界もやはり、法術、つまり魔法のようなものが栄えていたらしい。
 文明の程度はあまり変わらず、剣と法術が世界を構成する重要な要素だったとこのと。
 これを聞いただけで、現代人の僕としては、ほへぇーな感じだった。
 むぅ……ムハァかもしれん。
 それで、重要なのが、"ある目的"の為にこの世界に留まっているということだった。
 それは彼が元の世界に帰る為に必須のもので、ここで戦いに参加しているのもそれが理由だという。
 ……ちなみに、彼。
 この世界にきて、今年でちょうど三百年だそうです。
 ……。
 えらい童顔なのねぇ……。
 とは言うものの、何故か僕にはその顔がはっきり見えない。
 そりゃ自分の顔なんて見えないだろうと言われればそうなんだけど、それでも何かに映った姿は見えるはず。
 それでも、僕にはぼんやりとしか見えない。
 その姿、もっと言えば、その存在自体がぼやけているのだ。

 近くの小枝を拾ってきて、焚火に枝をくべながら彼はすっと腰の短剣を抜く。
 先程は戦闘の最中で気がつかなかったが、あまりにも美しい。
 僕の知り得る限りでは、こんな物は美術館でしか見たことがない。
 既に"剣"の領域を越えている。
 言わば、宝剣だろう。
「これは……私と妻を繋ぐ剣。そして唯一、私達の命を終わらせることのできる剣なのだ」
 突然そんなことを言い出す。
「驚いたか? 実際、私達はこの世界の住人ではない。私達を傷つけられるのもまた、この世界の剣ではないようなのだ」
 ……はい?
「この剣は己の主を媒体にして力を発揮する。この剣の恩恵を受けるには、自らの命を捧げねばならない。それが唯一、私達を殺めることができるという理由だ」
 というか、なんで僕にそんな話を?
「……。そう言われればそうだな。なんでこんな話をしたのだろう」
 少年、綺羅は苦笑すると、すこし哀しげな瞳で剣を見つめ、鞘に収めた。
「私達、そう、私と妹。私達二人のせいでこの世界のバランスは崩れてしまった。私達はこの世界では"異端者"なのだよ。……そしてキミもまた異端者なのだろう?」
 ……。
 彼は僕を同じ者として認識しているのだろうか。
 やっと冷静に状況を掴めるようになってきた。
 確かに僕は今、この世界では異端者だ。
 僕が存在していた、僕の知っている現在とはまったく違った場所、空間。
 ここは一体どこなんだろう……。
 そんな疑問をよそに、僕の意識は遠のいて行く。
「そうか、キミは帰れるのか……。それがいい……。こんなところには来るもんじゃない。自分の世界で、幸せに暮らすのが一番いい……。」
 最後に聞こえた彼の言葉だった。
 それは彼から聞いた言葉の中で一番哀しく……そして寂しい声だった。

[    ]