■鬼刃〜オニノヤイバ〜■

■戦場■
  気がつくと、強い風が吹きつけていた。
 止まることのない風は、いつまでも、どこまでも流れていく……。
「オオォォォォォォォォ……」
 すべてを苦しみに変えた叫びが響く。
 そのとき風は止んだ。
 いや、正確に言うとすれば、僕が止まった。
 目の前には普通の人間を一回り程大きくした"残骸"があった。
 鋭い爪、隆々とした筋肉、カッと見開かれた瞳は金色に輝いている。
 肩口から脇腹にかけ大きく切り裂かれ、あと少し傷が深ければ残骸は二つに増えていたであろう。
 到底、普通の人間には思えない姿がそこにはあった。
 けれど、一連の動作は僕の意思で行われたものではなかった。
 この体が勝手に動いているのだ。
 気づいた時に感じた強い風は僕自身が巻き起こしたものであり、僕の意思の外で行われたことであった。
 "僕の体"は血のついている小刀を一振りすると、刃こぼれ一つない刀身を見つめた。
 そこには僕の姿はなく、少年のような顔立ちと、月の光を浴びて輝きを増す、金色の瞳が映っているだけだ。

―――僕じゃない?

 僕は根っからの日本人だ(と思う)し、金色のコンタクトをした経験もない。
 一体この体は誰なんだ?
 そしてここはどこだ?
 ……なんで夜なのに普通に見えるんだ?
 そんなことを考えていると、ふと、この"体"が動いた。
「生き残っている者は集まれ!」
 よく響く、少年独特の澄んだ通る声で命じると、目印とばかりに小刀を掲げた。
 その刀身は月の光を浴び、強く輝いた。

 数分の後、小さな泉のほとりにあちこち傷だらけの男達が集まった。
「被害状況は?」
 おそらくこの中で最年少だと思われる風貌の僕が声をあげた。
 そこへ僕の倍はあろうかという大男が、ずいっと身を乗り出した。
 真っ黒に日焼けした肌に、短く刈りこまれた髪、その体は返り血を浴びて三分の一ほどが赤黒く染まっている。
 背中にはこの僕の体よりも大きいのではないかとさえ思われる両刃の剣を肩に載せていた。
「見てわかるように、精鋭部隊の3分の1は死亡、もしくは戦力外。大将のアンタ、を含めて、せいぜいまともに戦えるのは……15、6人ってぇところだ」
「そうか……」
 あっさりとした返事に、大男はその場にドカっと大剣を刺すと腰を下ろした。
「ま、俺としてはアンタと、この爛様がいりゃぁ問題はねぇがな。あ、そうそう、回復役の法術師も何人かいてもらわねぇとな」
 そう言って悪態をつくと周りを見渡した。
 見晴らしのいい草原は、所々に大きな穴があき、先ほど目にしたような"残骸"とかつての仲間達の姿がある。
 ある者は腕がなく、ある者は首から上がなく、上半身がない者まで、悲惨な様相を呈している。
 戦いを終えた者達の顔は疲れ、やつれきっていた。
 僕は頭上の月を見上げ、大きく深呼吸した。
「今夜はもうこれ以上ヤツ等も現れることはないだろう。よって本日の戦闘は終了とし、明日に備えて一旦休息を取る。法術師達は傷ついている者の治癒してやってくれ、それ以外の動ける者は休息を取れ。いつ来るかかわらない戦闘に備えて少しでも疲れを癒すこと。以上、解散!」
 
 兵士達は安堵のため息をつき、疲弊しきった体を引きずるようにして泉から離れていき、各々休息をとりはじめた。
 ある者は木陰で、ある者は武器を片手に、自分達の身の安全を再優先に休息を取っている。
 '僕の体'いや、綺羅という名の少年はその様子を確認すると、一人集団から離れ、泉のほとりに腰を下ろした。
 そして先程のように小刀をかざし、自らの金色の瞳を見つめた。
「で、お前は誰なんだ?」
 自らの瞳に対してそう呟く。
 ……僕?
 まさかなぁ……。
「いや、お前だ……。先程からいるようだが……何者だ?」
 ヴァ、ヴァレてーるよ、コウ兄ぃっ!
 いまさらどうでもよい人物(?)に対して報告してみる。
 てゆーか、ここはどこなんだぁっ!!
「……ヤレヤレだ」
 僕の雄叫びは綺羅を呆れさせるに充分だったようだ……。

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