■鬼刃〜オニノヤイバ〜■
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| 見渡す限りの闇。 辺りを照らすものは何一つとしてなく、ただただ闇が広がっている。 世界は光と闇で成り立っているはずが、ここでは闇のみが存在していた。 まるで、光が無くとも闇は存在し得ると鼓舞するが如く……。 ―――ォォオオオオォォォォ――― それまで、闇と静寂が支配していた世界に、空気を震わすような、低く、そして物悲しげな音が響く。 ―――オオォォォ――― その響き、獣の遠吠えのような音は絶え間無く続いていた。 ―――ガシャッガシャッガシャッ 足並みをそろえた屈強な男達が陣を組みながら行進している。 時折聞こえる鳥達の声をも飲みこんでいくような深い森の中、少しだけ開けた獣道をひた進む。 ある者は強い眼差しをたたえ、ある者は怯えた眼をしている。 彼等は南都を守護する為に集められた兵士達である。 先日、帝により発令された"朱玉を死守せよ"との勅令を受け、南都の防衛や周辺の調査等の為に駆り出されていた。 腕っぷしを買われた傭兵から、義務として駆り出された者、そして義勇兵等、その顔ぶれは様々である。 その中で特に異を放つのは、先陣をきって進む少年の姿だった。 身の丈およそ五尺、腰まである長い黒髪を一つに束ね、黒い甲冑を身にまとい、腰には一尺程の小刀を差している。 驚べきことに、およそ百名を超す陣を率い、統括しているのである。 その瞳は黄金に輝き、その先にあるであろう"何か"を見据えていた……。 ふとコウ兄がそこで話を止める。 それまでじっとコウ兄の話に耳を傾けていた僕と母さんが、同時にコウ兄を見た。 かすかに聞こえる巴の寝息だけが、コウ兄が話し始めた時と変わらず聞こえている。 「コウ兄、どうしたの?」 訝しげにコウ兄の顔を覗くと、何か少し難しい顔をして考え込んでいるようだった。 「……コウ兄?」 僕の声にようやく気づいたように顔をあげた。 その顔には少しニヒルな微笑が浮かんでいた。 「いや……。ここには件の石もあることだし……どうせなら"実際に"見てきたほうがいいかと思ってな」 突然訳のわからないことをのたまう。 ……コウ兄、難しい話をしようとしたもんだから……イっちゃった? 「……お前と一緒にするな、洋輔」 「…………」 コウ兄の容赦無く生暖かい目が僕を捉えた。 ……どうやら心の中で呟いたつもりが、実際に口から出ていたらしい。 ……フッ、僕としたことが……とんだ失態をお見せしてしまったようだナ。 「まぁ、それは置いといて……」 妄想の中で僕の歯がキラリと光る予定だったのをサラリと流された……。 さすがにやるな、コウ兄。 「見てきたほうがいいというのは、その言葉通りだ。石の中には洋輔がアクセスしたログが残っているはずだ。一度アクセスした者ならば、もう一度その石にアクセスすることによってその中に蓄積された情報を参照できるはずだからだ」 ……おっしゃる意味がよくわかりませぬが? そんな僕を見越したように、封鬼石を桐の箱から取り出した。 「コイツへのアクセスキーは既にお前が持っているはずだ。ちょっとその手を出してみろ」 そう言うと、何やら巴の隣にあるテーブルに行きごぞごぞと何かを探しはじめた。 仕方なく手を出すと、コウ兄はテーブルから小さなナイフ持ってきた。 「……煌お兄様はソレを一体どうするおつもりで?」 ちょっと引きぎみに訊ねると僕の手をがっしりと掴んだ。 「ちょっとだけ我慢しろ。すぐ終わる」 不吉なセリフを吐きながらナイフを僕の手に近づけてくる。 逃げようにも現役SPに手を掴まれては逃げようがなく、仮にそんなことをしても、後を考えると恐ろしい映像しか浮かんでこないので、しょうがなくじっとしていることにした。 ふと見ると、さっきからずっと外野で見守っていた母さんが"漢は我慢よ"目で語っている。 長年、母さんの息子をやっていて通しサインはバッチリだ。 しかし……何故に"漢"? 人差し指にチクっと痛みが走ると共に、じんわりと血が滲んできた。 「それをこれにつけろ」 そう言って封鬼石を渡す。 「でも、これって……」 「いいから早く。また光を集めだしちまうぞ」 ばあさんの形見でもあり、巴が大事にしていたものなんだが……。 「ふぅ」 半ば諦めの溜息をつきながら、血の浮き出た指で真っ白な封鬼石に触れた。 |