■鬼刃〜オニノヤイバ〜■

■不穏■
「まずは……渡辺家の歴史から話そうか」
 いつになく真剣な面持ちでコウ兄は語りだした。

――――今から時を遡ることおよそ千年。
 かつて世間を脅かす"鬼"がいた。
 美しくして残忍、聡明にして冷酷……。
 そして何より帝に仇為す存在。

 当時、都は混沌の最中にあった。
 複数の帝候補が"我こそが正当な帝である"と名乗りをあげ、血で血を洗う争いが続いていた。
 当然、その争いは都中を巻き込み、都の外門の外には屍が積み重ねられるといった異常な事態が続いていた。
 その帝候補の中の幼い帝は、その地位を手に入れる際、闇から闇へと政敵を葬ってきた。
 いつしかその帝に政敵は無く、気がつけばこの国はその手の中にあった。
 当然ながら幼い帝は"裏"で暗躍した者達を知るはずもなく、全てはその幼い帝を擁立しようとした家臣達の手によるものであった。
 こうして本人の知らぬ所で事態は進んでいき、幼い帝は晴れて正式な帝としてその位に就いた。
 激しい争いが続く中、その様子を瞳に刻みながら成長していった帝は学者から政を学び、平和と安泰の政治を自分のものとしていた。
 よって帝の政治は穏やかかつ安定しているもので、国中の民には歓迎され、稀代の名帝と褒め称えられた。
 しかし、その穏やかな時間も長くは続かなかった。
 要人の暗殺事件が起こったのだ。

「報告します! 本日未明、北都監視局、呪術大師が暗殺されました!」
「なにっ!?」
「報告によれば本日未明、北都監視局、呪術大師が亡くなられているのを従女が発見。現在死因の特定を急がせておりますが、……どうやら今回も”例の手口”と同様だそうです……大師の元に宝玉は無かったとの報告を受けております……」

ざわざわざわ……

 宮殿の中、玉座に座る帝を囲むようにして会議が進行の最中、不吉な報告が入った。
 ここ最近、都を守護する要となる北都、南都、東都監視局の呪術大師が次々と暗殺される事態が発生していた。
 今日はその対策を練っての会議であったが、そこに飛び込んできた訃報であった。
「ついに北都の大師までが……。これではようやく手にした安泰の都も……」
 帝の隣に座っている初老の男が溜息と共にもらした。
 この男は現在の帝を擁立せんが為に死力を尽くした側近の一人である。
 当時まだ幼かった帝を支えた人物でもあり、この男がいなければ現在の帝は変わっていたであろうとも言われる人物であり、都の宰相を勤めている人物である。
「今回も同様の手口とは……。五つに分けた都の宝玉のうち青、白、玄玉が奪われたということか……」
 都には五つの宝玉があった。
 青、朱、白、玄……そしてそれ等を司る天……。
 これらの宝玉は帝の証として存在し、天誓の儀、つまり帝の座につく儀式に用いられる。
 唯一の例外は、天誓の儀によって生まれるのが天の宝玉ということである。
 そしてそれは帝の証として輝くのだ。
 四つの宝玉は各々が大きな力を持ち、競合し合うため、東西南北、そして帝へと五つに分散させており、今回は玄の宝玉が奪われたということになる。
「……残るは朱玉と……この天玉だけか」
 先ほどから側近の話に耳を傾けていた帝が口を開いた。
 そして胸元にある小さく、そして半透明な宝玉を握る。
 すると帝に呼応するかのように宝玉が輝き出した。
「皆の者、見よ!」
 そう言うと、胸元の天玉を高く掲げた。
「我が証、天玉は未だ強い輝きを失ってはいない。宝玉の主、正当な継承者である我の呼びかけに答えてくれる!」

おおぉぉ……

 側近達の目は天玉の光に吸い込まれていった。
「我々は事態を少し甘く見ていたのやもしれん……。これ以上の被害を食い止め、そして奪われた宝玉を取り戻すため、都の全兵力をもって南都の守備にあたれっ!」
 一瞬の静けさがあたりを包み込む。
「御意っ!!」
 側近達は声を揃え、帝の命にこたえた。
 ただ一人、眉間に皺を寄せる宰相をのぞいては……。

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