■鬼刃〜オニノヤイバ〜■

■輝翼■
 桐の箱の中には、巴が倒れることになった原因と思われるペンダントが入っていた。
「これって……この間の?」
「そう、洋輔から受け取ったペンダント……。でもね、これはただのペンダントじゃないのよ」
 普段より少しだけ声のトーンを落として、じっとペンダントを見詰めながら呟いた。
 しかし、以前母さんに渡したモノとは少し違っていた。
 姿形は同じなのだが、以前のような輝きが宿ってはいない。
 以前は半透明で白く輝いていたのだが、今はただ白いだけ……。
 これではただの白い石でしかない。
「でもこれ、この前とは色とかが――」
「しっ!!」
 それまで箱の蓋を開けて、じっと石を凝視していたコウ兄が声をあげた。
「……"変わる"ぞ……」
 そう声を発した途端、石に輝きが戻り出した。
 いや、違う。
 これは……。
「洋輔、わかるか? これは石に輝きが戻ってきているんじゃない……石が光を集めているんだ」
 ……光を集める?
 この石が?
 何を言ってるんだ? という疑問をよそに石は急速に輝きを増していく。
 ……この光はあの時の?
「おっと……これ以上はちょっと眩しいな」
 そう言ってコウ兄は再び蓋を閉じ、僕の顔を見た。
「という訳だ」
 どういう訳やねんっ!!
 ネイティブの関西弁を話す友人女の子に教えてもらった完璧な発音でツッコミを入れる。
 ……心の中で。
 その女の子は、肩まで届くお下げと眼鏡の奥に光るキリッとした瞳が印象的な子だった。
 ……名前は確か、ほし……いや、いなが……なんだっけ?
 いつもの如く、向こうの世界に行きかけた僕の脳みそをコウ兄が止めてくれた。
「いや、悪い。そんな声も出ないほど驚くとはな」
 ……声が出なかったわけではないんですが……いっか。
「で、一体何なの、この石は」
「封鬼石だ」
「……ホウキセキ?」
「鬼を封じる石。封じる・鬼・石って書く」
「封鬼石ねぇ……。そう、そういえば、この石がきっかけで、頭の中が真っ白になって、声が聞こえて、そして気がついたら巴が倒れてたんだ……」
「……そうか。やはりな」
 そう言うとコウ兄は胸に手をあてて目を閉じ、それっきり黙ってしまった。
「ねぇ、母さん、一体どうなっ――」
「しっ、煌クンは"式"を呼び出しているのよ……」
 ……何がどうなってるんだ?
 シキって何?
 ってゆーか、僕だけのけ者?
 ……くすん。
「我と共にあり、我と共に滅する者、彼方と此方の狭間より来れ……今一度我にその力と祝福を与えんが為、我が前にその姿示せ」
―――ぞわっ
 何かが来る……。
 なぜかはわからないが、そう感じた。
 しかし、母さんはさっきからと同じように、平然としてコウ兄をみつめたままだ。
 何か危機感を感じ、本能からかとっさに目を閉じる。
 ……来た。
 やはり理由はわからないがそう感じた。
 そう、感じたのだ。
 しかし、それは少し遅れて不思議な安堵感に変わる。
 恐る恐る目を開けると、そこには大きな翼が見えた。
 コウ兄を優しく包む、白く輝く大きな翼。
 しかしその翼は一つだけで、翼の主は僕と同じ位の女性に見えた。
 あまりの美しさに呆然と見とれていたが、隣の母さんはまったく動じていないようだった。
 というより、見えていないようだ。
 視線は相変わらずコウ兄を捕らえている。
 その時、コウ兄は閉じていた目を開け、片翼の女性の頬に軽く口付けすると巴を見た。
 すると翼の女性が軽く頷き、巴の方に手をかざすと、微笑を残して消えていった。
「状況は俺の予想していた通りです。やはり巴ちゃんは"依代"となってしまっているようです」
 そう、と母さんは呟くような声で返事を返すとうつむいてしまった。
「……あのぅ、コウ兄、一ついい?」
「ん? ああ、悪い。またお前に説明なしで進めちまったな」
「いや、それはいいんだけど……さっきの女の人は……だれ?」
 叱られている子供のように上目使いでコウ兄におそるおそる話しかけた。
「……洋輔、お前……"見えた"のか!?」
 コクっと首を縦に振るとコウ兄は驚きを隠せない顔を見せた。
「……そうか、"見えた"のか。ということは話が早い」
 どういったことでございましょうか?
 もう僕の型遅れの脳みそでは処理速度がついていかず、限界ですぅ〜っ!!
 摩擦熱とオーバーロードで自爆するだけだ……。
「洋輔、お前が原因なんだよ」
 コウ兄の衝撃的発言が元で更にオーバーロードが加速する……。
 僕が何をしたっていうんだぁっ!!
 そんな僕の心の雄叫びをよそに、コウ兄は不敵な笑みを浮かべた。

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