■鬼刃〜オニノヤイバ〜■
| ■桐箱■ |
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| 「はい、どうぞ〜」 ノックされたドアから顔を除かせたのは母さん、そしてその母さんより頭一つ分大きい男が入ってきた。 身長は180cmは超えるであろう、漆黒のスーツに身を包んだ細身の男だ。 スーツと同じ色の髪は短く刈りこんであり、ツンツンにに立たせてある。 年齢は……30歳、といったところか。 「……母さん……そちらの方は?」 先ほどから母さんの後ろに身をおいている男……と言っても長身のために首から上が丸見えだが、彼が母さんの前に出て軽く手を挙げ、よぅ、とでも言わんばかりに挨拶をした。 「……?」 ……誰だ、馴れ馴れしい。 この僕が微笑を返すのはおにぃちゃ〜ん、といった極上の笑顔をたたえた巴くらいだぞ! 僕が怪訝な表情をしたのを見て、両手を上に挙げお手上げのポーズをとった。 「確か最後に会ったのは5年以上前だからなぁ……。ほら、これを見ても思い出さないか?」 そう言うと懐から一枚の羽根を取り出してくるくると回し出した。 「……あぁっ! こぉにぃ〜!!」 思わず僕がそう叫ぶと、コウ兄は口に人差し指をもっていき、シーっとたしなめた。 「やっと思い出したようだな、洋輔」 ニヤリとちょっとだけニヒルな笑みをもらした。 突然の来訪者は以前遊んでもらっていた従兄弟のナイスガイ、煌(コウ)兄だった。 「いつ日本に帰ってきたの!?」 コウ兄はSPの仕事をしていて、5年前から外国での要人警護をしていたはずだった。 「ああ、ちょうど休みをもらってな、1週間前位に帰国したばかりだ。が、今日はそんな話をしにきたんじゃないんだ。……巴のことでな」 そうだ、確か母さんは拝み屋を探していて、今日はその人を連れてくるはずだったのになんでコウ兄が? 「じゃあ、さっそくで悪いんだけど煌くん、巴の様子を見てもらえるかしら……」 僕の疑問をよそに、母さんによって状況は進行していった。 未だに眠り続ける巴の傍らに腰掛けると、懐から何か煙草の箱くらいの大きさの真っ白な紙を取りだし、巴の額に乗せた。 暫くその紙を眺めていたコウ兄だったが、不意に僕の方に振り返った。 「ここにくるまでの間に、だいたいの事情は聞いていたんだが……巴ちゃんが倒れた時に一緒にいたのが洋輔なんだな?」 「う、うん……」 「その時のことを詳しく教えてくれるか?」 それから僕は矢継ぎ早に繰り出される質問の全てに答えていった。 ばあさんの家に行っていたこと、気がつくと巴が倒れていたこと、そして例のペンダントのことも……。 「ふむ……。で、そのペンダントってのはどこにあるんだ?」 「あ、ちょっと待って」 それまで黙ってコウ兄と僕の会話を聞いていた母さんが、自分のバッグの中身をごそごそと探し始めた。 ペンダントは、最初に母さんに連絡を入れた時、母さんに預けておいたままだ。 その時、かなり驚いた顔をしてペンダントをみつめていたが、事態が事態だったので巴が最優先され……その後、そのペンダントは見ていない。 「はい、これよ」 そう言って母さんはバッグから取り出した。 が、それは予想していたもの、僕の知っていたものとは違って小さな桐の箱だった。 箱の周りには何やら紋様らしいもの、そしてよくわからない文字が描かれている。 それをコウ兄に渡すと、付け加えるように言葉を続けた。 「コウ君は知っていると思うけど、ウチの家系はほら、こうゆう家系だから……。結構古いものがあるのよ。これはその一つ……。ずっと女達が護ってきたものなの」 「……ああ、これが"あの"……」 「ええ……。もっとも、私は余り知らないのだけれどね。私には"力"がなかったようだから……」 ……はい? お二人とも、一体何ををお話していらっしゃいますのん? 現在、僕そっちのけでなされている会話の内容はさっぱりわからない。 犬が星を見るような目で二人を見ていると、コウ兄がそれに気づき苦笑をもらした。 「悪い、洋輔は知らないよな。まぁ、男にはあまり関係のない話だからな。追々説明してやるよ」 そう言うとまた話へ戻った。 ……何なんだ、一体。 というか、そんな怪しげな家系だったのか、ウチは……。 いかにも理解不能といった顔の僕に対して更に付け加えた。 「まぁ、これを見ろ」 そう言うと件の桐の箱を慎重に開けた。 |