■鬼刃〜オニノヤイバ〜■

■病室■
「はぁ……」
 何度目のため息だろうか、妙に四角い部屋の中で僕は椅子に腰掛けていた。
 背もたれの無い四つ足の椅子は、自然と姿勢を猫背にして憂鬱な気分に拍車をかける。
 なんでこうなったんだろ……。
 僕の心の中は疑問で一杯……のハズが妙に落ち着いている自分がいることに驚く。
 やはり、いつもの僕とはどこか違うのか?
 ばあさんの家での一件から3日が過ぎた。
 今はところ変わって病院の一室。
 音の少なく、ただただ真っ白な部屋の中は、なんとなく活力を吸い取られるような気さえする。
 だが、ため息の原因はそんなことではない。
 本当の原因は僕の目の前で静かに寝息をたてていた。
「ともえぇ〜、そろそろ起きろぉ〜……」
 とまあ、何度呼びかけたかはわからない。
 数秒の後、返事の無いことを確認しカクッと首を落とす。
「むぅ〜……」
 今日の午後はずっとこんな調子だ。
 巴はばあさんの家で倒れて以来、未だに目が覚めないのだ。
 ……あれから大変だった。
 夕方を過ぎても一向に目を覚まさない巴。
 何度ゆすっても目を覚ます気配が感じられなかった。
 寝起きがよくない僕ならまだしも、巴はそんなことはない。
 さすがに焦り、家に連絡を入れて、病院へ連れていって、検査が行われて……。
 それで現在に至る。
 立派なお髭の院長先生らしき医者が言うには……。
「原因不明」
 ……だそうだ。
 精密検査の結果では、脳波から何から全く異常無し。
 ただ眠っているだけなのだそうだ。
 ずっと……。
 はじめこそビクついて、このままだったらどうしよう……などど考えていたものの、僕にできることなど、そうはなく……。
 こうして傍らで、時々呼びかけるくらいしかできない。
 そこへ、どこから聞きつけてきたのか母さんが、親類に拝み屋のようなことをしている人を見つけたようだった。
 結構その世界では有名らしく、この手の問題を多く解決しているらしい、とのこと。
 その話を聞いて、現在多少は希望を持てるようになったところなのである。
 
 それよりも母さんの狼狽ぶりは物凄かった。
 それはそうだ、突然、愛娘が眠ったまま目を覚まさないとなれば、親ならば誰であっても同じだろう。
 最初の1時間は混乱の時間、次の1時間は奔走の時間……。
 しかし、あれこれ手を尽くしたものの、現代医療、科学の範疇を超えた出来事に対して有効な手段は見つからなかった。
 それはそうだ、医者がお手上げなのを一般人の僕たちができることはなかなか見つからないものだ。
 それにより、最後の神頼み的思考で拝み屋の手配となったのだ。
 今は母さんが迎えに行っているところで、その人の到着待ちである。

「寝る子は育つ言うけど、……僕はあんまり大きな妹はいらないぞ」
 シスコンの兄としては、気軽に頭をなでなでできるくらいの背丈が丁度いい。
 相手がどう思うかは別なのだが……。
 ……はうぁっ!?
 ぼ、僕はシスコンなのかぁっ!!??
 なのかぁっ!!
 なのかぁ……。
 なのか。
 普段はどこからか現れてはツッコミを入れてくれる妹も、今はただただ眠るのみ。
 誰か止めてくれよ……。
 理不尽な思考の元、相変わらず目を覚まさない巴の頬を人差し指で押してみる。

 ぷにぷにぷにぷに。

「……」

 ぷにぷにぷにぷに。

「……」

 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……。

 がはははははははは。
 ……虚しい。
 いつもは楽しくも(僕だけ?)はた迷惑なイタズラは相手の反応が無くては大変つまらないものでしかなかった。
 がっくりとうなだれ、早く目を覚ませよ、と涙目で催促する。
 ……泣くなよ僕も、こんなことで。
「飲み物でも買ってくるか。……ちょっと行ってくるな」
 おそらく聞こえてはいないだろうが、巴に言って部屋を出ようとした。
 そのとき、病室のドアがノックされた。

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