■鬼刃〜オニノヤイバ〜■
| ■盛夏■ |
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| ……コッコッコッ…… 断続的に聞こえる音。 ……何の音だろう。 少し、霞のかかった頭で考える。 ……眠い。 いや、そうでなく……。 ……コッコッコッ…… 聞き覚えのある音。 ……ああ、時計だ、柱時計。 少しずつ覚醒する頭が答えを出す。 そこでゆっくりと目を開いた。 普段から立ち上がりの悪い脳の稼働率は30%といったところだ。 「……」 真正面に顔が見える。それは知った顔、僕の妹だ。 ……なんで顔があるんだ? しかも真上に。 そこで、さらにおかしいことに気づく。 顔の上下が逆? ……未だ僕の脳は稼働率が上がらないらしい。 ……寝ぼけてる? 「……おにぃちゃ……」 そう小さく呟くと顔が降りてきた。 瞳は閉じられている。 ……お〜い、このままだと「ちゅ〜」しちゃうぞぉ〜。 が、変わらずゆっくりと顔は降りてきている。 だから、ちゅ〜……。 ……ちゅ〜? ……はい? そこで、一気に覚醒する。 「おっ……」 おい、と言いたかった。 しかし僕のへっぽこな脳みそは指令を滞らせている。 もちろん、頭はパニックだ。 なんで妹が? おいおいちょっとマテ! 兄妹だぞ、僕等は! いや、そういうことじゃなくて。 いや、大いに関係あるが……。 さまざまな考えが普段よりも高速で飛び交う。 このままでは脳は熱暴走してしまう。 誰か、冷却ファンを〜……。 そうこうしている間にも唇は迫ってきている。 先ほどの問いの解答を考えているヒマはない程に。 「……ッ」 避けられない。 不意の出来事に対してとっさに体は動いてくれないものだ。 元よりそんなに反射神経はよくない。 危険が迫った時によくあることだ。 顔をそむけ、きつく目を閉じる。 次の瞬間……。 「ぐほぉうあっ!!」 急激な呼吸困難に陥る。 ……しかも、激しい痛みを伴っている。 ……息が出来ない。 息を吸おうとはするのだが空気が入ってこないのだ。 しかし、その原因はすぐに判明する。 ……「何か」が鳩尾にクリティカルヒットしたのだ。 「……んん〜?」 先ほどの僕の断末魔の声を聞いてか、妹が上体を起こす。 が、その瞳はトロンとしていた。 そのまま、ん〜っと腕を上にあげて伸びをする。 「……ふぅっ」 そして寝ぼけ眼のまま僕を見下ろした。 「……? どーしたの?」 苦悶の表情を浮かべる僕を見てそう言った。 まるでなにもなかったかのように……。 ようやく息をつけるようになった後、すべてを理解する。 ……コイツの顎だ。 ……そういえば。 ひとつの出来事を思い出し、合点する。 コイツは寝ている僕を膝枕にていたんだった。 そうしている間に自分も眠くなってそのまま……。 ……今回の事件の犯人は、くあ、と余裕の欠伸をかましていた。 ……どうしてくれよう? そんなことを考えていると、頭を持ち上げられた。 「もういい? 大丈夫だよね」 そっと、頭を膝から下ろし立ちあがった。 久しぶりに直の空気に触れた頭が、少し気持ちいい。 妹はそのまま台所へと歩いていく。 その後姿を横目で見送り、体を起こした。 ヒドイめにあった、まったく。 お陰で起きたが、もうちょっとソフトに起こして欲しいものだ。 ……別に起こしてくれとは頼んでないが。 体中に血液を送り込む感じで伸びをする。 ようやくいつもの自分に戻った気がした。 すると、今まで聞こえてこなかったセミの鳴き声が家の外から聞こえてくる。 時計を見ると針はL字型を示している。 午後3時。 最後の記憶が正午だから3時間寝ていたことになる。 さて、どうしたものかと考えていると、セミの鳴き声に触発されてか、急にのどが渇きだした。 「たしか、台所にはアイツがいるはずだ。僕も飲み物をもらいに行くか。」 先ほど消えていった、妹の跡を追う。 大きく開いた窓からは、さわやかな風が流れ込んでいる。 夏の風にしては上出来の部類だ。 いつもはうるさいセミ達の合唱も、気持ちのいい夏を演出してくれている。 セミ達の合唱が勢いを増す。 その声に後押しをされるように部屋を出た。 |