■Lien■

■春■
 暖かい風が吹いてきた。
 窓の外の風景は、暖かい季節の到来を待ちかねた木々たち。
 それぞれの命を開花させるのを、今か今かと急かしているように感じられる。
 カレンダーを見ると、日付の数字が赤く染められていた。
 今日は日曜日。
 かねてからの約束で、友達との買い物の日だ。
 集合予定の時間よりも、かなり早い時間に準備を終えた私は、部屋の外をぼーっと眺めていた。
 この部屋から見える景色は、遮蔽物のないことが幸いして、外の景色がよく見える。
 かつて時間は、私にとって、苦しみでしかなかった。
 新しい季節を素直に感じ取れることはとても嬉しいことで、そして、苦しむ自分を優しく解放してくれた"彼"への感謝の気持ちを再確認できるとても大切なこと。
 なんだか、そんな季節を直に感じたくなって予定よりも早いが待ち合わせの場所に向かうことにした。


 上を見上げれば、どこまでも空が続いているように感じられる。
 いつまでも見上げていると、思わず吸いこまれそうな感覚がした。
 天気は快晴。
 抜けるような空が広がっていた。
 手をかざして見上げなければ目が痛くなるほどのいい天気。
 いつになく気持ちのいい朝になってくれたようだ。
 自然と顔が緩む。
 こんなに気持ちいい天気はなかなかお目にかかれるものではない。
 少しだけ寄り道をして待ち合わせ場所へ向かうことにした。


 いつもは通らない、公園を通り抜ける。
 それほど大きいわけではないけれど、長方形の公園を縦に通り抜けると3、4分ほどの回り道になる。
 今日は公園の様子を見ながら目的地へ向かうことにした。
 休日の公園には人影はまだ少なく、砂場には昨日の子供達の名残が残っていた。
 誰かが忘れて行ったシャベルやボールが、少しだけ砂の中に埋もれている。
 今日も誰かがこの砂場で遊ぶのだろうか。
 そんなことを考えながら、いつもの休日の風景を横目に駅へと向かう。
 待ち合わせの時間は10時。
 まだ1時間位の余裕がある。
 けれど、気分は高揚していた。
 今日の買い物は久しぶりの遠出だし、何より天気がいい。
 太陽の暖かさが私の心を後押ししてくれているようだった。
「春物を買いに行こう!私達が華の季節がやってきたのよ」
 友人の、そんな風な冗談交じりの一言がきっかけだった。
 確かにそれも一理ある。
 華のいのちは短いのだ。
 自分の言っていることが少しおかしくて、心の中でうふーと笑う。
 いつもよりはしゃいでいる自分に苦笑しながら公園を抜けた。
 公園の出口からはすぐに並木道が待っている。
 そこには沢山の木々が植えられていた。
 公園の中にも植えられていた樹。
 桜。
 満開の花を抱えた枝が少しづつ溢れた花びらをこぼしながら私を包み込んでくれる。
 いや、包み込んでくれるハズだった。
 当の桜はまだ、ほとんどが蕾のまま。
 やわらかな桜色がこの並木道を染め上げるのはもう少し時間がかかりそうだった。
 足を止め、ふっと目を閉じて、満開の桜を瞼の下に思い浮かべる。
 一様に、上を見上げながらほうっとため息を漏らしそうな人の姿、木の下でお弁当を広げる姿が浮かんだ。
「咲いたらお花見かなー」
 相変わらず浮かれた気持ちで再び歩き出した。
 けれど、私の気持ちを持ち上げてくれたのは、想像上の満開の桜ではなかった。
 短い命を燃やすために、そして、それぞれが美しく咲き誇るためにじっと力を溜めこんでいる蕾たち。
 その姿が私に何か期待めいたものを少しだけ与えてくれた。
 新しいはじまり。
 それはこの道を通ってやってくるのかもしれないし、それもまだ、ずっと先のことかもしれない。
 でも、必ずやってくる。
 新しい季節の、はじまりのプレゼント。
 春一番にはちょっと頼りない風が背中を押してくれた。

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