■Lien■

■彼方から此方へ■
 静かな、そして穏やかな場所。
 あたりを照らす光もなく、誰かの口から漏れる、かすかな吐息すら聞こえはしない。
 ここには何も存在していない。
 光もなく闇もない。
 ……気がつくと”ワタシ”はここにいた。
 ”ワタシ”がいるのに”ワタシ”がいない。
 ”ワタシ”が存在しているのに”ワタシ”が存在していない。
 わかるのはそれだけのこと…。
……ナゼ、ワタシハ、ココニ、イルノ……
 こたえは返ってこない。
 当然だ。
 ”ワタシ”しかいないのだから…。
 他のことを考えようとしても、すべてがあやふやで、すべてが霧散していく。
 けれど不思議と穏やかな気持ちにつつまれる。
 目的があってここにいるわけではない。
 そのまま穏やかさに”カラダ”を委ねる。
 そうすることで安らぎの中へ溶け込んでいく。
 ”カラダ”、その存在すらつかめないままに。
 不意に、吸いこまれるような、沈み込んでいくような感覚につつまれる。
 まるで砂時計がゆっくりと流れ落ちていくような気分。
 どこへ連れて行くのだろうか。
 その疑問もまた、少しずつ霧散していった。
 眠りにつく時のように、ゆっくりと”ワタシ”が薄れていく。
 ……いつしか”ワタシ”は小さな光となっていた。
 そうして何処かへと漂いだした。
 ワタシの意思ではなく、自然に。
 自分が光になっても何も見えない。
 見えるものは無いのかもしれない。
 それとも、もっと大きな光が必要なのかもしれない。
 もっと大きな光が。
 光が欲しい。
 願いが誰かに聞き届けられたのか、大きな光が近づいてきた。
 それはすぐ近くをゆっくりと通り過ぎる。
 ちっぽけな光の”ワタシ”をさらに照らしながら。
 その光は”ワタシ”を包み込む。
 暖かい、そして……
 ひどく懐かしい。
 通り過ぎていった方へ向きを変える。
 少しでも近づきたい。
 少しでもそばへ行きたい。
 そして、そうしなければならないような気がして。
 ワタシは光を追いかけた。
 すぐに追いつく。
 光はまるでワタシを待っているかのようにゆっくりと進んでいた。
 たまらずワタシは呼びかけた。
 音の無いこの世界で、声にならない声を届けたくて。
 光が、ワタシが姿を変える。
 ”ワタシ”を、私であった頃へと。
 ”あの人”を知っている私へと。
 手を伸ばす。
 あのぬくもりを確かめたい、感じたい、抱きしめたい。
 もうすぐ手が届く。
 もうすぐ……。
 もう1度、そう、もう1度、私は……。
 そこで不意に、私が途切れた。

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