■Angelic Feather■

■交錯■
 昼下がりの公園。
 子供達や、それを見守る母親達で賑わう中、ただ一人ベンチに腰掛ける青年の姿がある。
 以前、この街に住んでいたことがある青年だが、それを知る者はほとんどいない。
 いや、皆無に等しいと言ったほうが正しいのかもしれない。
 その青年は周りの様子をただただ、ぼうっと眺めている。
 普段、ここでは見かけない顔だ。
「隣、いいかね?」
 ふと顔をあげると、老人が立っていた。
「あ、どうぞ……」
「すまんね」
 よっこらしょと青年の隣に腰をかける。
「兄さん、見ない顔だが、この街の人かね?」
 突然老人が話しかけてきた。
「ええ、最近ここへ来たばかりなんですよ」
「ほう、どおりで」
 そう言うと懐から煙草を取り出した。
「煙草、いいかね?」
「ええ、いいですよ」
「すまんね」
 何か、同じような会話を、内容のない会話を続けた。
「ちょっとワシの話し相手をしてくれんかね? 最近ばあさんが天国(むこう)へ行ってしまってな、話し相手がいなくて難儀しておるんじゃよ」
 人差し指で空を指しながら、老人は自分でもその指の先を追った。
「……僕でいいなら」
「すまんね」
 どうやらこの老人の口癖らしい。
 ふぅ〜、と半ば上を見上げるようにして煙草の煙をはく。
「ところで兄さんは何の仕事をしている人なんじゃ?」
 痛いところをつかれたと言わんばかりの顔で青年は苦笑する。
「それが、恥ずかしい話なんですが、決まっていないんですよ」
 ぽりぽりと頭を掻きながら話す。
「ほう、それはいかんね、もったいない。……どうだい? うちで働いてみないかね? こう見えても施設の管理者でな。ほれ、ワシも年なもんだから仕事が辛くてな。若い労働力が欲しいところなんじゃよ」
「……僕なんかで大丈夫なんでしょうか?」
「おお、やってくれるかね? 部屋は余っておるから住みこみで働いてくれてもいいぞ。見たところ独り者じゃろう? メシも出るし、いい条件じゃろ」
 かなり強引な仕事の勧誘。
 はじめは冗談だろうと踏んでいたが、なにやら本気だと気づき、少しの間思案する。
 そして、意を決したように顔を上げる。
「……それじゃあ、お世話になります」
 その言葉を聞いて老人の顔がほころぶ。
「おお、それは助かる。ありがとう。で、兄さん、名前は?」
「名前……僕の名前は……イノスです」
 かつて真白き翼を背に、神の愛を伝える天使。
 そして、ある少女を守りきることができなかった、後悔の守護天使。
 それがこの青年であった。
「でも、なんでいきなり、こんな僕を雇おうだなんて?」
 普通ならば、何も知らない赤の他人をいきなり雇ったりはしない。
 当然の質問だった。
「なんだか、自分がいないような、そんな感じがしたもんでな。ちとお節介だったかな?」
 そう言って老人はニカっと、人懐っこく笑った。

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