■Angelic Feather■
| ■届かない声■ |
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| 「イノス〜? ねぇ、イノス〜、どこ〜?」 カリノの声が聞こえる。 まだ朝早い時間だ。 「は〜、ここにいるよ〜」 ぼくは半分寝ぼけ眼で返事をする。 けれど、カリノは気がつかないのか、ぼくの方を見ずに部屋を出ていってしまった。 ……また新手のいたずらか? 最初はそう思ったが、様子がおかしい。 カリノの後を追いかけていったが、確実におかしかった。 目を真っ赤に腫らし、泣きそうな顔をしてぼくの名前を呼んでいるのだ。 「ここにいるよ!!」 なんだか嫌な感じがよぎり、一際大きな声で半ば叫ぶようにして自分の存在を告げた。 ……けれど一向に気づく様子はない。 何か頭の中で警告が鳴っている。 いけない、なんとかしなくちゃ。 漠然とそう考えた。 そういえば昨日から様子がおかしかった。 急に一階から戻ったかと思うとベッドに入るなり、布団を被ってしまったのだ。 なんだか声をかけるにかけられない様子だったので落ち着くのを夜中まで待ったが、どうやら寝てしまったようなので僕も眠りについたのだが……。 昨日のうちに手を打つべきだったのだ……。 いつの間にかBまでいなくなってしまっている。 しばらくして部屋に戻ってきたカリノはベッドにポスンと脱力したように座ると、焦点の合わない瞳でどこか遠くを見つめていた……。 あれから三日が過ぎた。 やはり、もうカリノには僕の姿も見えず、声も聞こえないようだ。 何も話さずに、ただそばにいるだけがこんなに苦痛だとは思わなかった。 そしてその日の夜、予想していたことがおこってしまった。 カリノもぼくも落ち込んだ様子で、ずっと黙っていた。 「……ふぅ」 小さく溜め息をつくと、窓をすり抜け屋根の上に出た。 空には大きな月がぽっかりと浮かんでいる。 ぼくはそれをボーっと眺めていた。 すると月の中に白い点が見えてくる。 それは少しずつ大きくなていき、最後には人の形をとった。 「お久しぶり……」 月から舞い降りてきたのはぼくの直属の上司、セラだった。 「どうしてここに?」 セラとは定期的に会ってアドバイスをもらっていたが、今日はその日ではない。 一体、何があったのだろう。 そうだ、カリノのことを相談してみよう。 そう思い、僕の口が開きかけた時、先に声を発したのはセラだった。 「守護天使の任、ご苦労様でした」 「……え?」 ぼくにはその時、なんのことだか全くわからなかった 「本日をもって、汝イノスの守護天使の任を解除します」 「…………」 イマイチ理解が追いつかない。 任の解除? それって……。 セラは普段見せたことのない、表情のない顔で淡々と告げる。 「イノス、貴方には天界への帰還命令が出ています。これよりすみやかに帰還していただきます」 普段の口調とは違い、ぼくに対して言っているのだと気づくまでに時間を要した。 「ちょ、ちょっと待ってよセラ! それってどういうことだよ!」 その時ぼくは我を忘れて叫んでいた。 するとセラは悲しい目をして、ぼくを抱きしめた。 「ごめんね、まさか、こんなことになるなんて……」 「セラ……」 セラに抱きしめられてようやく我を取り戻した。 「守護天使はね、普通、守護する人間が幸せを手に入れた時にその任を終えるの。……でもね、守護するはずの人間が拒絶した時、自分以外を拒絶してしまった時、その時も任を終えてしまうのよ……」 ぼくはセラが苦しそうに話す言葉を黙って聞いていた。 「だからあなたは帰らなくてはならないの。これは神様が決めたことなの……」 神様が決めたこと……。 ぼく達天使は、神様の無限の愛、そして光につつまれて存在している。 だから、その神様の決めたことを破ることは決してできない。 そのことを理解したとき、ぼくはセラの手から離れていた。 「任務、終了いたします」 儀礼。 任を終えることを承諾した証。 「それじゃあ、私は先に戻っています……」 そう言うとセラは再び空へと昇っていった。 ぼくはその姿を後ろ目に、カリノの部屋へと戻っていった。 天界へ戻らないわけではない。 最後の別れをしにいくのだ。 部屋の中では、相変わらず暗い表情でベッドに腰掛けるカリノの姿があった。 ぼくは本当の大きさ、本当の姿になって優しく抱きしめた。 それでももう気がつかない。 もう、本当に……。 「最後のお別れを言いにきたよ……。そして、守ってあげられなくて……ごめん……」 ぼくはその時、はじめて「涙」を流した。 |