■Angelic Feather■

■聖夜祭■
 一年に一度だけの聖なる日。
 天使達は、自分の意思で地上に降りることが許されている。
 クリスマスに天使を見る、という人間が多いのにはこういった理由がある。
 世界中、それこそ、ありとあらゆる場所で……。
 そんな一年に一度の、いわゆる天使にとってもお祭りのような一日が始まった。
 日付が変わるのを心待ちにしていた天使達が空から舞い降りはじめる。
 空はまだ陽の光が差し込む気配すら感じられない、深夜のことである。


「ねぇ、まだ早いんじゃないの?」
 とある天使達のグループからそんな声が漏れてきた。
 そのグループの数は……五、いや、六人ほどか。
 誰もが皆、真っ白なロープに身を包み、ゆうに体の二倍はありそうな翼を広げて空を滑るようにして降りてきている。
 その様子はまるで渡り鳥が編隊を組んで飛んでいるような、そんな姿に見えた。
 先程の声は、中でも一際大きな翼、そして一番風格のある女性から発せられた声のようだ。
 おそらくリーダーであろうその女性は、腰くらいまである長い髪をふわふわと舞わせながら"やれやれ"といった表情で、未だに暗い夜空を眺めている。
「え〜? だって地上に降りるのは初めてなんだよ」
 そう答えたのは一番若そうな天使。
「どんなところか早く見てみたいよ」
 やんちゃ坊主をやっと卒業したような、そんな少年に見える。
 ツンツンの髪の毛が、彼の性格を物語っているようだ。
「あのね……そうじゃなくて……」
 呆れ顔の女性が何かを言おうとした時、他の天使達が離れていく。
「それじゃあ、私達はこっちに向かってみます。そっちは以前に行ったことがあるので」
 礼儀正しそうな青年が、新たな編隊を組んで遠のいていく。
「はい。貴方達も十分気をつけて"ね」
 そう言って右手を軽くあげた。
「それでは失礼します。イノス、あまりセラ様にご迷惑をお掛けしないように」
 それだけ言うと翼の向きを変えてふわっと舞い降りていった。
「……エルのやつ、言いたいことを言ってれちゃって。……全く」
 少年が先程の言葉に対して腹を立てた様子で、口を尖らせていた。
「まぁまぁ、そんなに怒らないの。エルだって悪気があって言ってる訳じゃないんだから」
 セラは苦笑しながら、弟を説得する姉のような口調でなだめようとする。
「だってさぁ……」
 イノスが相変わらず不満の声を漏らそうとすると、セラの顔をみて一瞬凍りつく。
「あら……。わ・た・し・の言葉に何か不満があって?」
 それまで、優しいお姉さんの雰囲気を振りまいていたセラが言葉にすごみをきかせている。
 その顔は、さっきと変わらず微笑みをたたえているが、妙にぎこちなく見えた。
 よく見ると、片方の眉が微妙にヒクついている。
 ……危険だ。
 さすがにイノスも、その気配いち早くに気づき、口を閉ざした。
「い、いや、やっぱりセラの言う通りなのかもしれないよね、うん。僕の勘違いだったみたい……です」
 最後のほうは声が尻すぼみになっていた。
 心なしか、体までギクシャクしているようも見える。
「そう? わかってくれればいいのよ」
 なんとなくではあるが、それまであった張り詰めたものが取れ、セラの表情はいつもの穏やかな微笑みに戻った。
 それを見てホッと溜め息をつくと、イノスは心の中で額の汗を拭った。
 どうやら以前、とても有意義な経験をしたらしい。
 同じミス(?)を犯さないイノス君に勲一等を贈りたい。
 おめでとう。
「でね、さっきの話の続きなんだけど……」
「ん?」
 不意にセラの表情から微笑みが消える。
 とは言っても穏やかな顔のままなのだが。
「まだあなたは翼を頂いたばかりでしょう? もう少し期間をおいて、そう、来年の聖夜まで待ってももよかったんじゃないのかな、ってね」
 確かに、イノスの翼は先程までいた天使達とも、セラとも違っていた。
 形や大きさ等が違うのではない。
 敢えて言葉で表すとすれば"色"が違うのだ。
 セラやほかの天使達は真っ白な、少し輝きを帯びた翼なのに対して、イノスの翼は少しだけ青みがかっていて、さらにはほんの少し透き通っているのである。
 これはつい最近"翼を得る者"として認められた証であり、地上でいうところの若葉マークに等しい。
 よって、翼を得た者が、その翼に慣れるまで、他の天使達は補佐してやらなければならないのだ。
 天使とはいえ新米のペーペーでは、どこでどんなミスをしてしまうか分かったものではない。
「そんなぁ〜……。だって今日だけはあんまり神様のお叱りを受けることがないんだよ?」
 そう、イノスの言うように、今日だけは特別な日なのである。
 今日、天使達によって起こった出来事は、大抵が"奇跡"として処理される。
 それにより天使達は皆がこぞって地上に降りていくのだ。
「それにセラが僕についていてくれるって言ったから……」
 ちらりと横目でセラをうかがう。
 そんな姿をみてくすっと笑うとイノスに近づき、頭をやさしく撫でた。
「そうだよね。イノスも一応は立派な天使なんだしね、大丈夫か」
 先程の口答えで危険を察知したのか、イノスはされるがままである。
「……。"一応"は"立派"って、……一体どっちだよ」
「ふふっ」
 二人はそろって小さく微笑んだ。

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