chihiro様より 「 雪 華−きら− 」



誰もいない、深い、深い森の奥。
あたしは氷雨を避けた木の洞から顔を出し、空を見上げた。
深い森の奥には、古い樹木が高く天を指して伸びている。
まるで、空を突き刺すように。

鋭い樹木の枝先で、空に穴があいて、ふわりふわりと白い花が落ちてくる。
誰も居ない森を、白く白く染めてゆく。

「……きれい」

あたしは自分の腕を抱え込み、洞の中でそんな様子を見ていた。
ぶるりと身体を寒さに震わせ、かじかむ手足をこすり合わせながら。
下草の茂みががさりと動いて、白いものが飛び出した。
ふわふわの冬毛に包まれた、真白い兎。

「獣はいいなぁ、温かそうで」

ぽつりと、そんな言葉が口をつく。
先ほどまでの氷雨で凍えた地面は、もう凍りついている。
その上に、白い花はどんどん積もっていった。

さくり、と雪を踏む音がした。

「りん」

冷ややかなお声が聞こえた。
あたしは巣穴の中から飛び出す兎のように、その声に弾かれ木の洞を飛び出した。

「お帰りなさい、殺生丸様!!」

真っ白い雪の花よりも、ずっとずっと殺生丸様の方がきれいだった。


 * * * * * * * 


鈍色の暗鬱な空の色、氷雨は雪に変わり辺りを白く埋め尽くして行く。

今までなら、微塵も思いもしなかった。
季節−とき−の行き過ぎる様などは。

春に芽吹いた若葉、夏に色鮮やかに咲く花と、豊かな実りの秋を過ぎ、
今は、冬。

朽ちたものの姿を、雪の下の隠して ――――

森の奥の静寂に、ふと心が騒ぐ。
雪の上に降り立ち、声を発する。

「りん」
「お帰りなさい、殺生丸様!!」

森に響く、雛の声。
雪に鮮やかな頬の赤み、瞳のきらめき。
その声は、雪に木霊し煌きを生じる。

「きれいだね、殺生丸様! どこも、真っ白だよ」

弾んだ声。
りんの吐く息が白く凍り、その声までも結晶しそうだ。

「……その分、お前は赤いな」
「えっ?」

小首を傾げるりんを、何も言わずに抱えあげる。
冬などに、連れ去られたくはない私の花を ――――

この腕に伝わるりんの重み、その温かさ。
私の肩に回された手の小ささ、耳元をくすぐるお前の吐息。

お前は今、「生きている」――――


* * * * * * * 


「きれいだね」

あたしは殺生丸様の腕の中で、もう一度そう言った。
あたしに触れた殺生丸様の腕や肩、もこもこや胸や鎧やお着物や、
みんなみんな温かくて、嬉しくて嬉しくて。

あたしの顔の真横に、殺生丸様のお顔がある。
そう思ったら、胸がどきどきしてきた。

殺生丸様は何も仰らず、ただりんを抱き上げた腕に少し力を込められた。
殺生丸様の眸は、真っ直ぐ雪の降り続く森の奥を見ていらっしゃる。

今なら、りんにも殺生丸様の見てるものが見えるのかな?
こうして抱き上げてくださって、同じ目の高さの今ならば。

ずっと、こうしていた。
ずっと、同じものを見ていたい。

ずっと、ずっと、一緒に居たい。
ねぇ、殺生丸様 ――――




= 管理人コメント =

当サイトからもリンクさせていただいている「妖の恋」様が、先日サイト開設1周年を迎えられました。
その際、期間限定でリクエスト受け付けますよv の一文を読み、思わず手を挙げたしまったのです^_^;
有り難くもリク権をGETし、リクエストして描いてもらったのが今回のイラストです。
chihiroさんのイラストは、その筆ペンを思わせる独特のタッチと和の色彩を感じさせる色使いで、本当に「犬夜叉」の世界観にぴったりだと思うのです。
個性が際立っている、その描かれた方の内面が表現されたイラストがとても好きです。
chihiroさん、本当にありがとうございました!!
 
頂いたイラストから浮かんだSSを、感想の一部としてコラボさせていただきました。
イラストの名付けもと言うお言葉に甘え、「雪華−きら−」とタイトルを付けて、サイトにUPさせていただきました。
どうぞこれからも、よろしくお願いします。



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