【 ゆくもの 】



―――― そう言う事か、天生牙。


あの時、私を呼び止めたのは。

そして。
時を経てお前は本来の、『成るべく』ものとしてこの手に戻った。


お前は ――――

在るべきものを、在るべき姿に導く剣。
世の理(ことわり)を正す剣。
お前の『使い手』としての、私の力量を……


かつて……

私は、非情であった。冷酷であった。残虐であった。

―――― 今も、それは変わるまい。

変わったのは……


―――― 『慈』を知った事。


『慈しむ』事、『愛しむ』事。

お前が教えた、それ。
蔑んでいた人間の雛を連れ歩き。
敵に背を見せ、その身を守り。
捨て置く事も出来ず、側に置き。

何の役にも立たぬ人間の小娘。
醜い屍を曝していた娘。
訳もなく、訳も知らず、ただ ただ手放せず ――――


あれは……

取るに足りぬ、醜き半妖の片割れ。
五月蝿く付き纏い、甘言を吐き…
あれの生き様など、取るに足りぬ。

だが……




………… そう言う事か、天生牙。

『お前』が『お前』たらんと欲し、私に『求めた』ものは……

そして、今……


妖怪どもに引き裂かれた訳ではなく、愚かしくも繰り返される戦場の流れ矢に当たった訳でもなく。
ましてや、飢えや病でもない。

ただ……

いつものように花を摘もうとしただけの事。
そこが、崖であったのは偶然。
足を滑らせたのも、偶然。

お前が私の元に来た時と同じように……


そう…、同じように。


砕けた体を、己の血糊の海に浮かべて ――――


何故、鳴かぬ! 天生牙!!
あの時のように……
何故!?


天生牙でも救えぬ、『命』 ――――

見極める、命。
見極めなければならぬ、命。

どちらも、共に……

もう、その声が我が名を呼ぶ事もなく……
閉ざされた唇。
初めて、触れた。

……冷たい、血の味。



そして…、『哀』を『悲』を知る。



私にそれを教える為に、りんを神楽を配したのかっっ!?

この天生牙を持つ者として ――――
全てを統べる者として…。
相反し、数多の矛盾を呑み込み、それでもなお『己』であれと。




今 道を指し示すか、天生牙。


この殺生丸を征く者として ――――


【了】
2008/05/05




【 あとがき 】

…う〜ん、難しいですね。天生牙について普段から思っている抽象的なイメージを言葉にするのは。
私、もともとから天生牙をただの『お助け刀』とは思っていません。そう思う気持ちが根底にあるせいか、私の書く殺りんでは基本的にりんちゃん若死にしますし、延命策は一切講じるつもりもないんです。
『命』って、どんな命でもそんなに都合良く扱うものではないと思っているので。むしろ、『生かし切る』事に意味があると。

この世の物ではない、天生牙。
その天生牙の使い手として【選ばれる】者もまた、世俗な者では役不足なんだろうな。そういう天生牙と殺生丸の因果のようなものが書いてみたかったんですけど、何やら意味不明な物になってしまいました。

私自身恋愛要素の薄い人間ですので、普通この場合着目する点は、殺・神・りんの三角関係(?)的な所なのではと、感じていてもその点は完全にスルー。そして、こんな身もふたもないような物を書いてしまいました。

こういう一人称の文章は心情を書くには書きやすいんですが、その反面 切り返しがし難いので、始末の悪い物にもなりやすいような気がします。
纏まりが悪くなるので、実は上の文章 神楽とりんちゃんのパートをカットしてます。
形になるようだったら、短いそれこそ詩作のような短文を神楽メインで入れるかもしれません。


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