【 真 意 】



―――― くだらん


この私の『気』が乱れていると?

判った風な口を叩く下衆が!!
あの女の事まで持ち出して、愚弄する愚か者め!

そう…
この気は ―――
この怒りは ―――

お前がこの私の目の前に在る事の、『お前の存在』そのものに対する『怒り』。

そして……

「……丁度、良い。所詮は薄汚い鬼の牙」

お前のその醜い体を、これの鞘にしてくれる。
もともとは、お前のもの。
何一つとして己のものを持ち得ない、姑息に意地汚く他人のものを掠め取って身に纏う、醜き者よ。
これはそんなお前の唯一の物。
ありがたく、受け取るが良い!

鎧甲に突き刺さり、砕け折れた剣を見て勝ち誇ったかのようなお前。
砕け折れたのは、かつてのお前−悟心鬼−の牙。
犬夜叉から掠め取った金剛槍破で私を貫き。

ふん、片腹痛いわ。
痴れ者が!!

本来の力を持ち得る鎧甲ならば、金剛槍破ならば、悟心鬼の牙の剣如きに破られる事はなく、この身を引き裂く事も出来ようほどに。
そのような借り物の力で鎧った触手で、この殺生丸を絡め取ったつもりか!?
まだいじましくも私をその醜き体に取り込むつもりか!!!


―――― 良かろう。


身を持って、知るがいい。
お前が敵に回した相手が、『誰』であるかを!

本来の私を見せてやろう!!







「……なんだか、凄まじかったね」
「ええ…、あれが兄上の本性ですか」

砕け散った鎧甲と綺羅のように残光を反射させる槍の欠片。
先ほどまでその場を占めていた、二つの巨体は既に無く。

「けっ! あいつも奈落同様…、ってか奈落そのものか。相変わらず逃げ足だけは速いな」

そう言いながら犬夜叉は、もう一体が飛び去った空を見ていた。
相手にあれだけの深手を負わせたからか、後は勝手にやれとばかり殺生丸はその場を立ち去った。

あの後―――

犬夜叉の竜鱗の鉄砕牙が桔梗の破魔の矢で浄化された鎧甲を砕くのと同時に、金剛槍破で鎧った触手が内側からの強大な『妖力−ちから−』で吹き飛ばされた。槍と盾を失った魍魎丸が、瞬時に逃げ出したのは言うまでもない。

「……かごめ、あれが殺生丸の本性なのか? あんなにどでかい妖犬なのか?」
「ええ、そうよ。私も二度目だけどね。一度目は、犬夜叉のお父さんのお墓の中だったの」
「ああ、親父はもっとどでかい奴だったけどな」

もう一度、空の高みを見やる。
その瞳には ――――

「…これで暫くは魍魎丸、いや、奈落の動きは封じられたのでは?」
「うん、そう思いたいけどね。相手が相手だから油断はならないよ」

互いは認めようとはしないだろうが。
それでも期せずに兄と弟、二人の力で局面を切り開いた事実には変わりは無い。それの『意味』する事は ――――





「ふん! そろそろ来る頃だとは思っとったぞい」

相変わらずの貧相な形に、相手が誰であろうと小馬鹿にしたような口ぶり。
薄汚い、鍛冶場の洞穴。
「お前ぇ、わざとだろ? 闘鬼神をへし折ったのはよ」
「…………………」
「……貸しな。鍛えてやらぁな」
刀々斉の言葉に洞穴の暗がりを一閃、光を弾く小さなものが弧を描く。
「ありゃ、ワシが破門したロクデナシがこれまたろくでもねぇ鬼の牙から鍛えだした邪剣だからな。もともとお前ぇが持つには相応しくねぇ剣だったのよ、殺生丸」
飄々と、作業の手も止めず相手を見やる事も無く、言葉を続ける。

「……いつ、出来る」

「そうさなぁ…。七日後、だ。七日後に取りに来い」
「七日、だな」
「ああ。あっ、そうだ。お前ぇ、この闘鬼神の鞘はどうする? 要るんなら、朴仙翁に話を付けにゃな」
「……鞘など、要らぬ」
「そうか。まっ、お前ぇがそー言うんなら、それでいいか」
刀々斉の言葉が終わらぬうちに、その姿はもう消えていた。
「ちぇっ、相変わらず短気な奴だ。まぁ、こっちにしても久方ぶりの大仕事だからな、都合がいいと言やぁいいけどよ」
刀々斉は自分の手の上の牙を改めて見つめ直す。

「……いい光だ。犬の大将の牙を鍛えた頃を思い出させらぁね。その銘に相応しい剣に鍛えてやるからよ」
暗い洞穴に赤々と、全ての邪なものを焼き尽くすような炎が燃え上がる。
その炎の中に、『牙』を入れ ――――
「鞘は要らねぇ、か。そうだな、この剣は無闇やたらと斬る為のもんじゃねぇ。『守』る為の剣になるんだからよ」
炎に彩られる刀々斉の顔は、どこか嬉しそうに見えた。
「……まったく。なぁ、犬の大将! お前ぇの馬鹿息子どももどうやら一人前になってきたみたいだぜ」


闘鬼神――――


その名に恥じぬ、『神』宿りたもう剣なりと。
それを持つものも、また ――――


【終】




【 あとがき 】

ちょっと、格好つけすぎましたかね? (笑)
なんせ、昨日のうちにネタバレは読んでいたんですが自分でも読んでみないと、微妙なニュアンスや勘所みたいなものは人それぞれなので。
朝、コンビニで買ってきて午前中に読んで、色々片付け事をしながらの突発SSですので、アラはご容赦下さいませ。時間をかけても大差ないんですけどね、この手のノリは。

これは、原作先読みSS、と言う事で。

後の二本はかなり殺りん妄想が入ってきます。G.W中に残りの二本も書けたら良いなv と思っています。


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