【 絆 −きずな− 】



…ここの管理人の先読み手前勝手設定での話です^_^;
多分、ありえない事ですがのっけから殺生丸、ヘタレておりますので一言お断り申し上げます。




―――― そう、いつもの事。

殺生丸様が疾く行かれ、その後を邪見様が追うのは。
そして、あたしは阿吽とお留守番。

でも……

なんでだろう?
胸がどきどきして、心がざわざわして……
殺生丸様が天翔けられた空の色が、嫌な色に見えるのは。
あたしは搾り出すように、大きく息を吐いた。心配げに阿吽があたしの顔を覗き込む。

「ううん、あたしは大丈夫。ただ、訳は判んないけど息苦しくて胸が潰れそうなんだ」

空の色はますます嫌な不安な色が濃くなってゆき……

「……行ったら、きっと邪見様に叱られるよね。殺生丸様のお邪魔にもなるよね。でもね、りん……」

阿吽はあたしの気持ちを知っているように二つの首を下げて、あたしの頬に変かわりばんこに頬摺りをする。そして殺生丸様の行かれた空を見上げ、一声いなないた。

「阿吽?」

阿吽があたしの帯を噛み、背に乗れと促す。

「阿吽、あんたも気になるんだね? 殺生丸様、いつもと違うって感じてるんだ!!」

あたしが阿吽の背に跨ると同時に、阿吽はあたしを振り落とさないぎりぎりの速さで空に舞い上がった。

「しっかりしがみ付いてるから、阿吽 もっと早くっっ!!!」

あたしは阿吽の背中で叫んでいた。



―――― かごめが見つけ、殺生丸が抉り、桔梗が浄化した魍魎丸の鎧甲。

竜鱗の鉄砕牙は諸刃の剣。
触れたものの【妖力】を吸い取るその力。今、鉄砕牙に流れ込むのは鎧甲そのものの妖力と魍魎丸の妖力と。使い手の【器】のよっては、使い手諸共弾け飛ぶ! 犬夜叉は己の身を省みることもなく、今 ここで!! のその思いだけで竜鱗の鉄砕牙を振り切った。

三者が活路を拓いた鎧甲の中の四魂の欠片は竜鎧の鉄砕牙に触れるや否や、瞬く間に鉄砕牙に吸収され、犬夜叉と鉄砕牙の妖力を強大化させた。それは取りも直さず魍魎丸に取っては【欠片の力】で己が身に取り込んでいた鎧甲と金剛槍破を失う事を意味していた。

欠片のない魍魎丸の妖力では鎧甲と金剛槍破の妖力を従えさせる事は出来ない。鉄砕牙の切っ先が魍魎丸の本体に達する前に、魍魎丸は身を翻しまるで蜥蜴が己の尻尾を切り捨てて逃げ去るように、背に負う鎧甲と殺生丸を掴み占めた金剛槍破の腕を振り捨て、その場から消えた。

……結果として、鉄砕牙には奪われた金剛槍破の妖力だけではなく鉄壁の守り・鎧甲の妖力まで加わった。四魂の欠片を入れたままの鉄砕牙ではいつ暴走するか判らないので、それはかごめに抜いてもらう。


「桔梗……」

この窮地を救ってくれた者の姿はもうすでにそこにはなく。

「犬夜叉! 早く、こっちに来て!!」

かごめの叫び声に、はっと我に返りもう一つの懸念に対峙する。
厭らしげな触手の形をした金剛石の刃に切り刻まれた……、殺生丸。
魍魎丸の未練の表れか、殺生丸を掴み占めたその腕は未だその掌の中に殺生丸を捉えている。透き通った光が赤く染まって、光を返す。

「殺生丸っっ!!」

鉄砕牙を魍魎丸の残骸に振り下ろすと、溢れ出る真砂のような綺羅らかさと共に大量の血潮。
もとより氷のような玲瓏なその容貌はいっそう蒼々しく、そして……


既に、息はなかった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「…せっ、殺生丸様っっ!! 殺生丸様〜っっ!!!」

甲高い金切り声を上げて、邪見が転ぶように走り寄る。
こんな主人の姿など、長い年月付き従ってきたが見た事がない。今までで一番傷ついた姿と言えば、あのりんを拾った折か。

「…ったく! 寝覚めの悪りぃ真似するんじゃねぇっっ!! とっとと起きやがれ、殺生丸っっ!」

手荒に微動だにしない殺生丸の肩に手をかけ、その手に感じる零れて行く【温かさ】に、犬夜叉は心臓を氷の楔で貫かれたような恐怖を感じた。

「……ぇねからな。絶対、許さねぇからな! こんな所で、あんな奴の手に掛かってくたばっちまうなんて、俺が絶対、許さなねぇっ!!!」

激しい口調。
怒りも露に。
それは、相反する【想い】の表れ。


その時、空に ――――


「殺生丸様ぁぁぁー!! 殺生…、あっっ!!!」

空の高みから、一頭の妖竜が舞い降りてくる。
その背には…

今、一番この【場】を見せてはならない少女の姿。

「り、りん? な…、なんで、こんな場所へ……」

邪見はすっかり恐慌を来たしており、言い繕う言葉さえ思いつかない。
まだ幾分か高さがあるにも関わらず、りんは阿吽が着地する間ももどかしくその背から飛び降りると、犬夜叉達の影に倒れている殺生丸の元へと駆け寄った。

―――― 初めて会った時よりももっと酷い、血塗れの姿。

閉じた鋭利な眸の上に不吉な蒼い影が落ちている。白銀の髪も、いつもりんを包む柔らかな妖毛も、殺生丸の流した血潮に濡れそぼち輝きを失っている。

「…う、嘘 だよね? 殺生丸様、強いもんね。少し、お休みしてるだけだよね!?」
「りんちゃん…」
「りん、信じないからっっ!! りん、りん……」

そんなりんの目を冷たい光が射抜く。
それは…

「あっ、りんっっ!!」

慌てて声を掛けたのは邪見。
りんは力任せに、殺生丸が携えているもう一口の太刀に手を掛けた。
小柄なりんの背丈ほどもある、細身の長刀。


天生牙 ――――


「これっ、りん! その御刀はお前のような子供が…、いや、【人間】が手にしては良いものではないわ!!」
「…だって、だって!! この剣は【命】を繋ぐ事が出来るって! 殺生丸様の大事なお父の牙の剣だって!! りんが殺生丸様に助けてもらったように、きっと殺生丸さまだって、助けてくれる!」

剣の重さによろめきながら、りんはそれでも必死で剣を構えようとした。

「無理じゃ、りん! その剣は殺生丸様でなくては使いこなせぬ。人間のお前などに…」
「いやっっ!! りん、そんな事、聞きたくない!」

構えようとして、腰半ばまで持ち上げた天生牙を、横から犬夜叉が押さえる。

「りん、お前にゃ無理だ」

そう言った犬夜叉をきつい目つきで睨み付け、りんは叫んだ。

「それじゃ、小柄(こづか)を頂戴! 鎌でも良い、早く!!」
「りんちゃん…、そんなものどうするの?」

心配そうに、かごめが言葉を掛ける。

「殺生丸様が【あの世】に行かれるなら、りんも行く! 小柄を胸に突き立ててでも、鎌でこの首を掻き切っても!!」
「馬鹿なっっ!! そんな事をしては、殺生丸は咎めこそすれ喜びはすまい。今まで守ってきたお前の命。天より授かったたった一つのものだ、無駄にするなっっ!!」

そう諭そうとした弥勒を正面から見据えたりんの瞳。

「…りんは、一回死んでるもん。狼達に食い殺されて。【今】のりんに命を授けて下さったのは、殺生丸様。天の神様なんかじゃないよ。だから、付いて行くんだ!」

揺ぎ無い、その意思。
何者にも勝る、その思慕。
我欲もなく、真っ直ぐなまでの【想い】

( …あっ? )

犬夜叉は、手にした天生牙の鍔鳴りを聞いた。

( 鳴動…、してる……? )

助けたい思いは同じ。
りんの【想い】が、天生牙の【力】を発動させる。

( …そう、だよな。殺生丸は鉄砕牙の結界に拒まれても、鉄砕牙を【使いこなす】事が出来る。それは、鉄砕牙が【親父の牙】の剣だからだ。ならば、俺だって…… )

ひんやりとした、【この世の物】ではない剣をしっかりと握り締め、正眼に構える。気を落ち着け、一度目を閉じゆっくりと開いた。
殺生丸ほどの眼力がないせいか、【あの世】の使いは見えないが殺生丸の周りを覆う嫌な【気】は感じられた。

「戻ってきやがれ! 殺生丸っっ!!」

魂魄の【気】を込め、殺生丸を覆う【気】を薙ぎ払う。
天生牙と犬夜叉はその一瞬、共鳴した。



「殺生丸様っっ!!」
「殺生丸さまぁぁぁ〜」

「………………」

鞘に収めた天生牙を殺生丸の前に差し出しながら…

「…これで、【借り】は返したからな。俺が変化した時に止めてくれた借りは」
「…ふん」

差し出された天生牙を腰に納めると殺生丸は、周りの者には一瞥もくれずにその場を立ち去った。
慌てて、しかし嬉しそうに邪見とりんが後を追う。


「……どうにかなりましたな。いくら仲が悪いとは言え、兄上の身は心配だったでしょう?」
「へっ、あいつをぶっ飛ばすのはこの俺だっっ! 他の奴に…、ましてやあんな魍魎丸みたいな奴にやらせるか!!」
「…素直じゃないんだから。でも、奈落に対しての戦力が落ちなくて良かったわ」
「のうのう、これで犬夜叉も天生牙を使えると言う事か? ならば、恐いものなしじゃのう。殺られても、蘇らせてもらえるんじゃからの」

そう言った七宝の頭をワシワシと掻き毟り ――――

「…いや、俺には無理だ。あれが使えたのは【りん】の御陰だ。それに…、あれは鉄砕牙よりも恐ろしい剣。生半可な心根じゃ、使えねぇ」

珊瑚が小さく頷く。

「うん…、なんとなく判るよ。どこかで、振り分けなきゃならなくなる。どんなに大事な者であっても、いつかその時には…」

そう言った珊瑚の瞳に映った面影は…

「さぁ、今から追撃です。魍魎丸が新たな妖力を取り込む前に!」


まだ、それぞれの旅は続く。


天生牙が繋いだものは ――――


妖と人の子

兄と弟


そして、父と息子たち ――――



【終】




【 あとがき 】

思いっきり、ベタな展開です。
この話では殺生丸、良い所は一つもありませんし。
殺りん展開は、この話の【おまけ】の方になりそうです。

…しかし、鉄砕牙。
いろんな力を付けすぎだと思うのは私だけでしょうか?
もともとの【力】そのものを鍛えて欲しいような気がします。


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