【 きんのおもい ぎんのきずな3 】




「ヤキモチって、厄介なものね。犬夜叉を挟んで、私と桔梗はこの世界に存在しているの。どちらも同じだけの想いを寄せ合って。でもね、犬夜叉は一人。私たちが別々の存在である以上、重なる時はないの」
「桔梗しか知らない犬夜叉との昔の時間。それがあの二人の動かしがたい絆。後から顔を出した私には太刀打ちできないもの」

 話しているうちに、どんどん心が軽くなる。手にした弓も。

「でも、私もそんな時間を持っているんだって気付いたの。一緒に四魂の欠片を探したり、現代に帰った私を追いかけてきてくれたり。私、自分の好きな人の、自分の『知らない事』にヤキモチ妬いていたみたい」
「私の事を好きだって言ってくれた桔梗を信じて聞いてみれば良かったのよ! 私の知らない、二人の事。私に話しても良い事なら桔梗は話してくれる。そうじゃなかったら、話さない。私も、二度は聞かないわ。そう言う理解(わかり)合い方だってあるんだって」
「かごめ…、桔梗……」
「やっぱり、同じなのよ。私も、桔梗も。ううん、犬夜叉だって、そして桔梗の事を想っているあんただって!!」
「…『二股』って事が、ずっと引っ掛かっていたみたい。でも、どちらか一方じゃないとダメなの? そんな事ないよね? 同じくらい大切な存在なら、その両方に手を差し延べたって。騙すんじゃない、いい加減なんかじゃない! 心底真剣なら、どんなに大変でもどちらかを切り捨てるような真似、したくない!!」

 その言葉は、かつて桔梗が口にしたのと同じ言葉。
 かごめが知るはずも無い、その言葉。

「…聖なる形。三位一体とはこの事か……」
「なに?」
「私が浅はかだったと言う事。かごめ、お前は真(まこと)桔梗に信頼されるにあたうる者」

 かごめの迫力に押されたのか、精霊は本来の冷静さを取り戻しつつあった。

「わたしの我が儘で、お前や桔梗の貴重な時間を無駄にさせてしまった。一刻も早く、桔梗の下へ参ぜよ」
「あっ、でも! 私、こんな状態なんだけど……」

 悠長に問答を繰り返していたかごめと精霊だが、その状況は崖っぷちで右手一本で蔦を握り締めているのは変わらない。
 崖の上の桔梗の姿は、いつの間にか消え去っていた。
 これも、この精霊が作り出した幻か。
 いや、もしかしたらかごめの心の中にも…。

「一番の近道だ。その手を離せ、かごめ」
「えっ? 手を離せって…、そうしたらどうなるの??」
「この山に入って来る者は、皆 誤解している。私が惑わすから、霊廟に近づけぬと。ほんっとうは見た目よりずっと距離があるのだ」
「えっと、どういう事???」
「だから私が振り分けるのだ。迎えても良い者は霊廟へ。そうでない者は麓まで送り届ける。まともに歩けば三日は掛かる道なのでな」
「じゃ、手を離したら……」
「そう、麓まで一気に落下できる。これが一番早い。大丈夫、案ずる事は無い」
「案ずる事は無いって、ちょっと待ってよ!! 私、階段落ちなんてしたくないわよ〜〜っっ!!!」

 精霊は意味ありげに微笑むと、かごめを初めて暖かい眼差しで見つめた。

「…私が呼び寄せたからな。安心して飛び込むが良いぞ」
「いや〜んっっ!! 私、フリーフォールって苦手なのっっ!!!」

 ひゅ〜んと、と言う効果音と共にかごめ、退場。


   * * * * * * * * * * * * * *


 どこか、とにかく薄暗い所。
 あたりはウネウネとうねる木の根のような触手と、デート前の女の子がとっかえひっかえ脱ぎ散らかした洋服のように、妖怪どものパーツが散らかっている。
 場所の薄暗さに反比例して、それは明らかに浮かれていた。
 下手をすると、ルンルンと言う鼻歌さえ聞こえるかもしれない。

「どうだ? 神無。今度のコスは?」

 衣装とか装いと言わず、「コス」と言うあたり、自覚はあるようだ。
 そう、自分がコスチューム・プレイヤーであると言う自覚は。
 尋ねられた神無にしては、どうとも答えようの無い質問。
 良いも悪いもそれ以前に、奈落の趣味が判らない。
 少なくとも、神無の好みでは無い事は明らか。

「…奈落、急いで」

 答えをはぐらかす為に、神無は奈落を急がせた。

「まぁ、待て。久しぶりの対面だからな。やはり、それ相応に装いを凝らさねばな」
「…そんなの、きっと興味ない」

 ぽそ、と一言。

「早くしないと、かごめが戻ってくる」
「……かごめ、か。女は嫉妬深い生き物だからな。あの桔梗でさえ、五十年前疑惑と言う種を植え付けてやったら、巫女の本分を忘れてただの女に成り下がった。今の嫉妬に狂ったかごめの力など、怖くも無いわ」
「本当に、そう?」
「ん?」

 含みのある神無の言葉に、ようやく奈落が気を留める。

「かごめ、力を増してる。…好きだから」
「好き…? 犬夜叉に、か。だが、その犬夜叉の側には桔梗がいる。見物だな、女同士の嫉妬に狂った争いは」
「…違う。かごめ、桔梗が好き。桔梗も…。だから、二人が一緒になったら……」
「な? 何を、馬鹿な! 神無、お前……」

 こーゆー奴には口で言っても無駄だと、長年ついて来て神無は学んだ。
 自分が喋るより、鏡を見せた方が手っ取り早いのもあって、ずいっと神無は自分が手にした『死鏡』を差し出した。
 そこには ―――

 梓山に向う前のかごめの姿。
 心配気に見つめる桔梗の弱々しさが、妙に気をそそる。その桔梗に近づき、頬を寄せるかごめ。瘴気の傷を自らの唇で清めんと、ゆっくりと情愛を持って触れてゆく。
 その時の、桔梗の官能に満ちた表情!!
 見ているこっちが、じんと身体が熱くなってくるほどに。

 かごめと桔梗。
 見詰め合う瞳の何と熱っぽい事か……

「か…、神無? こ、これは…、どーゆー……」
「この二人、出来ちゃってるって事」
「そんな、馬鹿なっっ!!」
「鏡、嘘 言わない」

 し〜ん、と静まり返る。
 神無の白さが妙に目に付く。

「そ、そうか。こんな事をしている場合ではないな」

 アタフタと、奈落は蜘蛛の糸を山ほど抱えて空に飛び出した。
 急がねば!!
 かごめが戻ってくる前に、なんとしても桔梗はこちらの手に!!
 場所が、場所。
 選りにもよって、犬夜叉めが桔梗をあんな梓山の階段の真下に置きおって! かごめがその気になって、桔梗目掛けて飛んできたら……

 桔梗を救う為の『力』を得た、かごめ。
 きっと触れただけで、桔梗は完全復活するだろう。
 ましてや、かごめとタッグを組む準備も出来ている。

 やばい、やばいっ、やばいっっ〜〜!!!

 ようやくあそこまで弱らせて、これから自分の思い通りに扱えると喜んでいた矢先。
 あ〜んな事もこ〜んな事もしてみたいvvv
 鬼蜘蛛の『心』を再吸収したせいか、特にそう言う欲求が溢れて止まらず、この身を焼く。
 こんなチャンスは、この先きっともうない!!

 そんな思いが奈落に、かなり乱暴な手段を取らせた。
 蜘蛛の糸で投網漁。
 梓山の階段下で待っている桔梗を始めとした面々を一網打尽にする。

( よしっ!! 桔梗、捕獲! 残りの雑魚は途中で捨ててゆこう )

 桔梗をこの腕で抱ける嬉しさに、気分は超ハイv
 素直じゃない性格だけに、桔梗にかける愛の言葉もひねくれている。

「ひどい有様だな、桔梗。瘴気で壊れかけている上に…、弓までなくしたか?」

( どんなに酷い有様でも、瘴気で壊れかけていてもお前は美しい。武器を持たないお前は特に… )

「くくく…、どうだ? 憎いわしの腕に抱かれながら、死にゆく気分は…」

( ああ、この時をどれほど待ち望んだ事か。愛しいお前をこの腕に抱けて、心はもう昇天しそうだ。どうせなら、共にゆきたいものだな天国にv )

「憐れだな、桔梗。お前が死に掛けているというのに、愛しい犬夜叉はかごめとともにいる」

( そうだ、桔梗。お前をこんな所においてゆく二股犬など、切り捨ててしまえ。その分、わしがお前を可愛がってやるからな、可愛がりすぎて死んじゃうかも、だけど♪ )

 嬉々として桔梗に語りかける奈落を、桔梗は忌まわしいものを見るような目つきで睨みつける。
 巫女という特性からだけではなく、とにかくこの男の汚らわしさが嫌で嫌でたまらない。

( ああ、かごめ。お前は無事なのだろうか…? 何をか感じて、この石段を駆け上って行った犬夜叉を信じてても良いのだな? )
( 早く、早く…、かごめ。お前に、逢いたい。お前の手でこの身を清めて欲しい。この男に汚され尽くす前に!! )

 桔梗は心の底から、かごめの帰りを待っていた。


   * * * * * * * * * * * * * *


「いや〜ん、まだ、落ちるの〜っっ!!!」

 どういう仕組みか判らないが、あの精霊の侘びの気持ちとか言うこのショートカット・コース。
 辺りが白靄に包まれているせいで、不明瞭な世界をただただ下に落ちているような感覚。
 そう丁度、夢の中で落ちる感じに良く似ている。

「かごめ、どこだ―――!!」

( あっ、犬夜叉の声!? )

 そうかごめが思った瞬間、かごめの身体はふっと現実の中空に投げ出され、石段脇に生えている木立ちの梢の高さ位から現実空間を落下する。そのまま落ちれば、キネマの銀ちゃんどころではない大階段落ちになるところを、がしっと犬夜叉がナイス・キャッチ。

「かごめっっ!!」
「あ…、犬夜叉…?」

 落下のショックで、ほんのわずか気を失っていたようだ。
 目の前の犬夜叉の姿を見ても、今まで散々この山の精霊に幻を見せられていたので、一瞬疑ってしまう。

「本当に…、本当の犬夜叉…?」
「…? ああ…、大丈夫か?」
「うん…」

 来てくれたんだ、と言う安心感とともにあの時の精霊の言葉を思い出す。

( …案ずる事はない。私が呼び寄せたからな )

 悪い事ばかりじゃないわよね、とほっと一息つこうとしたかごめの瞳に、空から舞い襲い掛かる大量の蜘蛛の糸が映った。

「蜘蛛の糸っっ!!」
「なんだとっっ!」
「犬夜叉、あんた桔梗は何処に!?」
「あ、えっ… この石段の下に…」

 かごめの瞳には、その忌まわしい蜘蛛の糸の伸びた先で絡めとられる桔梗の姿が映る。
 かごめを待ちわびながら、汚らしい奈落の腕に抱かれる桔梗…。

「急いで! 犬夜叉っっ!!」

 自分の身の上に起こっている事のように、おぞましさで背中に悪寒が走る。

( 私の桔梗! 奈落、あんたなんかに穢させないわ。桔梗は、桔梗は…、私の大事な…… )

 ひらりと犬夜叉の背に乗ると、かごめは一気に犬夜叉を階段下まで駈け下ろさせた。
 そこには――――

 桔梗ばかりか、残っていた仲間の姿も無い。

「みんな…」
「奈落の野郎…」

 きっと、かごめは空を睨んだ。

「犬夜叉! あっちよ! 四魂の欠片の気配!!」

 かごめと犬夜叉が仲間を追って疾走する。


 待ってて、みんな!
 今 行くから!!


 桔梗、桔梗 ―――
 私の桔梗!!

 絶対、絶対! 私が助けるからねっっ!!! ――――


【終v】






え〜と、一応サンデー改竄劇場は、この26号をもって一旦終了です。まぁ、これを書いてる最中に切り離した「殺×りん×琥」な話も書きたいのですが…^^; こっちは割りとマジメに。
自分の中のキャラの捉え方や位置づけなどで、パラレル物でも動かし方に違いが出てきますね。
犬一行だとかごちゃんが現代っ子な分、地の文や対キャラ同士の会話でもパロ・パラに限りカタカナ語も使います。
殺一行では、これは多分しないだろうなと。りんちゃんをこの戦国設定では、現代っ子的な表現をしたくない。
私の中では殺生丸と対等の位置づけをしていて、もともとおしゃべりなりんちゃんですが、それで殺生丸をやり込めるようなうるさい女の子にはしたくないんです。
ここが犬夜叉を言葉で従わせるかごちゃんと違う点ですねv

管理人の拙いお遊びにお付き合いくださいまして、まことにありがとうございました(*^。^*)









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