【 きんのおもい ぎんのきずな2 】
…サンデー23号から26号までの改竄小話。変人奇人を自称する杜アレンジですので、そこのところはご了承くださいませ。
また、前半を書いてから少し時間が経ちましたので、後半部分は前半部分と異なりまして、かごめ視点から第三者視点で小話を進めております。真っ当シリアスな犬桔かご話をご所望なお客様は、これより先には立ち入らぬが精神的には安全かも知れません^^;
* * * * * * * * * * * * * *
「なぁ、かごめ。お前、お堂の中で何話してたんだ?」
犬夜叉の代わりにその背を借りた鋼牙がかごめに問いかける。
確かにお堂を出てきた時のかごめの只ならぬ雰囲気には、最近合流した鋼牙と言えど、かごめが犬夜叉と桔梗の関係に悶々としたものを抱えていると察せずにはいられない。
「ん〜、まぁ、ちょっとね。私が戻るまで桔梗に手を出さないよう、犬夜叉に釘を刺しただけよ」
「へっ、あの犬っころにそんな甲斐性があるかよ! かごめとあの巫女の間に挟まれておたおたしているだけだろーがっ!!」
「……やっぱり、そう見えるよね。甲斐性なしの二股男。私、ここに来て一番最初に逢ったのが鋼牙君なら、こんなに苦労しなかったかもね」
その一言の効力たるや、駈けるスピードの1.5倍さが物語る。
妖狼族の若頭、残忍さも併せ持つが何よりも『狼』由来の仲間意識の高さは、軽佻浮薄な人間こそが見習わなければならぬもの。
ましてや、番(つがい)の相方に寄せる情愛の深さは、幾つもの物語の素材に取り上げられるほどで、一度番えばその相手が死した時には己も独身を通す貞操の硬さ。そう、最初から『二股』などありえない。
そんな事をちらりと頭の片隅で考えながら、かごめは自分の言った言葉の罪深さには気付いていない。
報われなくとも、かごめに尽くすその姿こそが献身の鑑。
かごめが弓に張る弦を取りに梓山に向っている最中に、方や犬夜叉・桔梗サイドでも動きがあった。
考えてみれば、これこそが奈落の作戦であったのだろう。
戦力を二分する。常套と言えば、常套手段。
桔梗に取っては切り札となる琥珀を助ける為、傷ついた桔梗をお姫様だっこで駈けてゆく犬夜叉。
――― これを無謀と言わずして、何と言おう?
そんな所を襲われてしまえば、桔梗の命(?)など一巻の終わり。
いやいや、それ以前に。
危ないのは、かごめよりも桔梗。なのに、どうして鋼牙ばかりか弥勒・珊瑚まで梓山に同道したのか? う〜む……
そんな外野の声は、この際無視して話は進む。
鋼牙の健脚のお陰で無事梓山の麓に着いたかごめ達。かごめと居るからか、それともやはり奈落やそれの『素−もと』になった妖怪などとは性質が異なるのか、一種の聖域であろうこの梓山に、鋼牙も雲母も七宝も拒まれる事は無い。
プロ野球の四国でのキャンプを思わせる、目の前には長い長い石段。そこを躊躇いもせずに、一気に駆け上る。
だが、登れど登れど頂上に見えている霊廟には一向に近づけない。
―――― !!! ――――
かごめの胸がドキン、と鳴った。
※注 ここより以下〜
( 私のせい…!? 私が迷っているとでも…!? )
――― そりゃ犬夜叉と桔梗の事で、傷ついたり怒ったりするけど…
( そんなの、仕方のない事だわ! 私は神様じゃない! )
全部許して、何も感じなくなれば…
あそこに行き着けるっていうの!?
そんな事…
〜※ ここまで本誌本文より抜粋しています^^;
かごめが心の中で自問自答している間に、辺りに変化が生じた。
石段の上部にぽぅと何やらの影が浮かぶ。
そこまでは、鋼牙にも見えていた。鋼牙の足元を得体の知れない霧が包み、視界が遮られたと思った瞬間に鋼牙の背からかごめの姿は消えていた。
( 結界!! )
仲間たちと隔絶させられ、かごめは瞬時にそう悟った。
石段の上部に蟠っていた何やらの影が次第にはっきりした姿になってくる。
それは ―――
( !! 桔梗っっ! )
かごめの瞳が見開かれた。
いや、『これ』が桔梗であるはずがないのは判っている。ただ、桔梗の姿を写しとっただけのもの。
「……汚らわしい。お前、その胸に何を持っている? 蜘蛛の糸のように絡んでいる、それはなんだ」
「えっ!?」
かごめに投げ掛ける梓山の精霊の冷たい視線。
くるりと踵を返すと、あれほど近づけなかった頂上の霊廟へと足を運ぶ精霊。その後姿に招き寄せられるように、かごめも後に従った。
「……悔しいが、桔梗自身がここに来れない以上、私には桔梗を助ける事は出来ない」
「あ、あの……」
謎のような言葉をかけられ、不安げな顔をしているかごめに精霊は廟から梓弓を取り出し、かごめに手渡す。
「……これが欲しくて、ここまで来たのであろう」
「……いいの? これ」
あまりのあっけなさに、訝るかごめ。
「お前が真実この女…、いや桔梗を助けたいのであれば、その弓はちゃんと持って帰れる筈」
「あ、ありがとう」
ちらりと精霊がかごめを見る。
( あ、また…。なんて冷たい目で私を見るんだろう……? )
急を要する事だけに、ここに長居するつもりはない。精霊に言われるまでもなく、この手にした弓はちゃんと麓まで持って帰る。
そう、かごめの帰りを千秋の思いで待ってくれている、桔梗がいるのだから。勢い良く石段を下り出したかごめ。
精霊の言った、『ちゃんと持って帰れる筈』の言葉の意味を、ほどなくかごめは実感するのだった。
( ……薄汚い娘。汚らしい男絡みの邪念を胸に抱いて…。あれが桔梗の使いだとは。試させてもらうぞ、私の代わりに桔梗を助けるに値する者か否か。そう…、私の桔梗を、な。 )
精霊はかごめの心にある相反する二つの思いと、二人の人影を明確に捉えていた。
かごめは石段を降り始めて、またあの感覚に襲われた。そう、降りても降りてもいつまで経っても麓に着かない。
( ……私の心にまだ、迷いがあるの? )
立ち込める白い靄の中、数段下の石段も朧で石段脇の木立ちも靄の白さに溶け込み、曖昧な輪郭を浮かべているだけ。
その白い靄の中に、一際目立つ赤が一点。
「かごめーっ! どこだっっ!!」
「犬夜叉っっ!!」
かごめの帰りを待ちわびたのか、桔梗と共にあのお堂に置いてきた筈の犬夜叉の姿。
( まさか犬夜叉! あんな状態の桔梗を置いてきたんじゃないでしょうねっっ!! )
かごめの胸に広がる不安はそれ。
と、同時に犬夜叉と桔梗が一緒に居る事で漣たつ胸の内も抑えられない。
( ……結局、みんな二股なんじゃない。どっちも選べない犬夜叉もそうだし、私もそう。両方欲しいって言っている桔梗もそうよね )
「犬夜叉!」
「かごめ、どこだ!!」
犬夜叉には、かごめの姿は見えてはいないよう。声も届いてはいない。それがこの梓山の精霊の仕業なのか、精霊に言われた蜘蛛の糸のせいなのか? そう思った瞬間、かごめは自分に絡みつく蜘蛛の糸を自覚した。その糸で不自由な身体を、少しでも犬夜叉のもとへと引き摺るように動かしてゆく。
はっと気付いてかごめが顔を上げ、霞む木立ちの間を窺い見れば、そこには桔梗を抱いた犬夜叉の姿。
そこで交わされた会話は ―――
1.かごめには無理だった
2.梓山に試されて、不合格
3.かごめは汚れている
4.桔梗は犬夜叉のモトカノだから、やっぱり嫌い
5.本当は助けたくないんだよ〜ん
(※注 台詞を要約しております^^;)
( な、なんですってっっ!! こんなに頑張っている私を馬鹿にして! )
かごめの激昂した気を感じたのか、桔梗が冷たい視線を投げ掛けた。
一瞬、かごめの心が桔梗に対して助けたいという気持ちよりも、怒りにも似た訳の判らないドロドロとしたものを抱いた。
と、同時にかごめの足元は崩れ―――
* * * * * * * * * * * * * *
「急げ! 急いでくれ、犬夜叉!!」
身動きできぬ我が身を恨めしく思いながら、桔梗の胸は己の迂闊さでいっぱいだった。
そう、うっかりしていた。
梓山の精霊の性格を。
ここで言うのもなんなんだが、在りし日に神に使える巫女と精霊という近しいものであったが為に、互いに互いを感じあい共感・交歓する時を持った事があったのだ。
それから、この精霊が桔梗に特別な感情を抱き始めていた事を、ついうっかり失念していたのだ。
そう、常でも桔梗の姿を己の姿とするほどに桔梗を想っている。
そんな所に、あのかごめが乗り込めばどうなるか。
( ああ、すまないかごめ。どうかお前が無事でありますようにっっ!! )
桔梗の内心の焦りを表すように、犬夜叉に回した手に込められる限りの力を込め、競走馬を(…犬夜叉の場合だと混血のヘテロ型。殺兄だと純血のホモ型v)操る騎手のように、かごめの元へと馳せ参じる。
その途中、不吉な先行きを暗示するように、桔梗の弓が砕けてしまう。
( かごめ…、精霊の罠に落ちたのか…… )
暗転。
舞台などで、場面が変わる時に良く使われる手法。
場所の移動や時間の経過などを表現する。
ぐわしっっっ!! とかごめの右腕が何かを掴んだ。
左手には精霊から渡されたあの梓弓。
足元がかなりすーすーする。
ミニ丈のセーラー着用なら、これは常識v 二分丈のスパッツ愛用派。
舞台の上で徐々に照明が明るくなって、辺りの情景が映し出されるように、かごめは今の自分の状況を無理やりに把握させられる。
絶壁の崖の上、垂れている蔓草を右手一本で掴み占め、体全体の体重を支えている。左手の梓弓が少しずつ重くなる。
( ……なんだかこの状況、足の指の力だけで僅かな鉄板の出っ張りを掴んで身体を支えていた、未来少年にも負けないかも。って、私 ふつ〜の女子中学生よっっ!! )
※ここより本誌の台詞と管理人の改竄文が同居致します。はっきり申しまして、これより先はこれまで以上に妄想と捏造の世界です
「弓を… 渡せ……」
崖の上から、苦しそうな桔梗の声。
( 桔梗!! やっぱり来てくれたんだ! こっちが本物よ。さっきのはこの山の精霊が見せたニセ者だわ!! )
「かごめ……」
「犬夜叉を呼んで来て。一緒に居る筈でしょう!」
「この崖は梓山の精霊が作った結界の中。半妖の犬夜叉は入れない……」
ああ、やっぱり。
これで、さっきのはニセ者決定!!
それなのに桔梗… そんな弱った身でここまで来てくれたんだ。
これこそ、「愛」よね「愛」!!
「早く、弓を……」
今にも倒れてしまいそうなのに、そう言って手を差し延べようとする桔梗。だけど、この弓は……
「無理よ! こんな重たい弓じゃ、桔梗の身体が壊れるわ!」
「やはりお前は…、私の死を望んでいるのだ」
「はぁぁぁ〜?」
「かごめ……」
「なに? なんなのよ、その台詞! 今はそんな事言って居る場合じゃないでしょうっっ!!」
ひんやりとした冷気を何も無いはずの中空から感じた。
「弓を捨てろ……」
そう言ったのは、あの精霊。山頂の霊廟で逢った時とは雰囲気が違う。
桔梗に似た姿なのに、どこか男っぽい。
この精霊が桔梗を、「女」と意識しているからだろうか?
もとより、精霊に人間のような「性別」はないのだから。
「巫女よ…、お前こそその娘の死を望んでいる。愛しい男を奪った女だからな」
まぁ、なんて事言い出すのよ! この精霊は!!
「例え弓を渡したとしても、その巫女はお前を見捨て、男と生き残る道を選ぶ」
なんですって! なんですって〜〜っっ!!!
「だから――、弓を捨てろ」
何かが身体の奥から滾ってくるのを、かごめは感じた。
「……あんた、精霊だかなんだか知らないけど、良くもそこまで桔梗をバカにしてくれたわね!! そして、この私も!」
「かごめ!?」
「桔梗が最初は私を憎んでいたのは私も知っている。今でも、犬夜叉が好きな事も。でもね、『生きて』いれば、人は変われるのよっっ!!」
「……………」
「桔梗はねっ! 何が本当で、何をしなければいけないかよ〜く判って居るの!! その桔梗がね、私の事好きだって、愛しいって言ってくれたのよ!」
「馬鹿なっっ!! 稀代の聖なる巫女である桔梗がそんな浮ついた言葉を…」
「私を信頼して、ここに送り出したの! 自分の命が掛かっているのを承知で、まだやらなきゃいけない事があるのも十分判っていて……」
「桔梗……」
「あんたも、私と一緒よ。あんたも桔梗の事、好きなんでしょ? だからヤキモチ妬いたんでしょ?」
「かごめ…、おまえ〜っっ!」
ざわざわと、辺りの大気が不穏気に揺らめく。
「…一緒よ、私と。だから判るの。そして、私も気がついたの。こんなに簡単でとっても大事な事に」
「かごめ……」
「ふふ、判っていたつもりなのにね。犬夜叉は今でも桔梗の事が気になるの。好きって気持ちなのか責任感なのか曖昧だけど。勿論、桔梗だって今でも犬夜叉の事が好きよ。愛しているわ」
「言うな、かごめ。あの桔梗が……」
「ねぇ、あんたは善良な精霊なんでしょ? 誰かが誰かの事を大事に思って、助けてやりたいとか護ってやりたいって気持ちを、あんたは否定しないわよね?」
「かごめ…」
「自分の好きな誰かを他の人も好きだって言ってくれるのって、嬉しくない? 大事にしてくれたり、護ってくれたりって、凄くありがたいって思わない?」
「な…、何を…、そんな奇麗事を……。『人の心』は欲でいっぱいだ。己だけが良ければと、そう思う浅ましい生き物だ!」
「……そうね。私もそういう所がないとは言えない。何だろう? ここに来る間ずっと胸の中がモヤモヤしていたのね」
通常からかけ離れた構図の中で、かごめは淡々と自分の想いを語り始めた。
【3へ続く】
…延びちゃいました。
あ〜あ、こんな予定ではなかったのですが前半との文章量のバランスの為にも予定外ですが、前・中・後編という3部仕立てで行きます。
後編は出来るだけすぐにでもUPさせたいと思っています^^;
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