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1 元興寺(がんごうじ)の僧(ほうし)作
★ 嘆きの歌 ★
真珠は
その真価を
人に
知られることはない
知られなくても
かまわない
自分の真価は
自分一人が
知っていさえすれば
たとえ
世人(よひと)が
知らなくても
かまわない
白珠(しらたま)は
人に知らえず
知らえずともよし
知らずとも
われし知られば
知らずともよし元興寺の僧
万葉集、巻六
2 大伴家持(おおとものやかもち)作
その一
★ うなぎの人 パートT ★
ひどく痩(や)せて
うなぎのような
石麻呂(いわまろ)様に
申し上げます
夏痩(なつやせ)に
よく効くということですよ
うなぎを漁(と)って
召し上がりなさいよ
石麻呂(いはまろ)に
われもの申す
夏痩(なつやせ)に
よしといふものぞ
鰻(むなぎ)漁(と)り食(め)せ
大伴家持
万葉集、巻十六大伴旅人(おおとものたびと)の長男
その二
★ うなぎの人 パートU ★
石麻呂(いわまろ)さん
痩(や)せていながらも
生きていれば
それでよいのに
ひょっとして
あなた
うなぎを漁(と)ろうとして
川に流されなどして
死んでしまっては
いけませんよ
痩(や)す痩すも
生けらばあらむを
はたやはた
鰻(むなぎ)を漁(と)ると
河に流るな
大伴家持
万葉集、巻十六
その三
★ 紅にほふ ★
春の庭園に
紅(くれない) 色に
映(は)えて咲く
桃の花よ
花の光
照り輝く
樹下(じゅか)の道に
立つ
少女よ
春の苑(その)
紅(くれない)にほふ
桃の花
下(した)照る道に
出(い)で立つ少女(おとめ)
大伴家持
万葉集、巻十九
その四
★ 純白 ★
一面に白いのは
私の庭園の
すももの花が
散ったものか
はらはらと
庭に降った
薄雪(うすゆき)が
消え残っているのか
わが園(その)の
李(すもも)の花か
庭に落(ふ)る
はだれの
未(いま)だ
残りたるかも
大伴家持
万葉集、巻十九
その五
★ 可憐 ★
おおぜいの
少女たちが
入り乱れて
水を汲(く)んでいる
寺の井の
ほとりに咲く
堅香子(かたかご)の花の
可憐(かれん)さよ
もののふの
八十少女(やそおとめ)らが
汲(く)みまがふ
寺井(てらい)の上の
堅香子(かたかご)の花
大伴家持
万葉集、巻十九
その六
★ 憂愁 ★
春の野に
霞(かすみ)がたなびき
もの悲しく
この夕方の
淡(あわ)い日差しの中
うぐいすが
鳴いている
春の野に
霞(かすみ)たなびき
うら悲し
この夕かげに
うぐひす鳴くも
大伴家持
万葉集、巻十九
その七
★ 幽玄 ★
私の家の
少しばかり
群がり生えている
竹の
その茂みに
吹く風の音も
かすかな
この夕暮れ
わが宿の
いささ群竹(むらたけ)
吹く風の
音のかそけき
この夕(ゆうべ)かも
大伴家持
万葉集、巻十九
その八
★ 哀傷 ★
うららかに
照っている
春の日に
雲雀(ひばり)が
舞い上がり
心が痛まれる
独(ひと)りで
もの思いに
沈んでいると
うらうらに
照れる春日(はるひ)に
雲雀(ひばり)あがり
情(こころ)悲しも
独(ひと)りし
おもへば
大伴家持
万葉集、巻十九
その九
★ ハッピー・ニュー・イヤー ★
新しい
年の
初めの
初春(はつはる)の
今日
降る雪が
積もるように
いよいよ
積もり重なれよ
めでたいことが
新しき
年の始めの
初春(はつはる)の
今日降る雪の
いや重(し)け
吉事(よごと)
大伴家持
万葉集、巻二十万葉集二十巻はこの歌で終わっている
3 笠郎女(かさのいらつめ)作
その一
★ 片想い パートT ★
あなたが
恋い慕(した)われて
まるでどうしようもない
奈良山の小松の下に
立って嘆(なげ)くの
君に恋(こ)ひ
甚(いた)も術(すべ)なみ
平山(ならやま)の
小松が下に
立ち嘆(なげ)くかも
笠郎女
万葉集、巻四大伴家持の若い頃の愛人の一人
その二
★ 片想い パートU ★
私の家の
庭の
夕暮れの
薄(うす)明かりの中
草に置く
白露(しらつゆ)が
やがて
消えてしまうように
身も心も
消えてしまいそうに
無性(むしょう)に
あなたのことが
思われます
わが屋戸(やど)の
夕影草(ゆうかげくさ)の
白露(しらつゆ)の
消(け)ぬがに
もとな
思ほゆるかも
笠郎女
万葉集、巻四
4 作者未詳
★ 母の純愛 ★
旅人が
宿りをする野に
霜(しも)が降りたなら
私の子を
羽で包んで
やっておくれ
大空を飛ぶ
鶴(つる)の群れよ
旅人の
宿りせむ野に
霜(しも)降(ふ)らば
わが子
羽(は)ぐくめ
天(あめ)の鶴群(たずむら)
万葉集、巻九
旅人:遣唐使の一行
つづく・・・