【パ・リーグ、日本ハム6−9ダイエー、13回戦、ダイエー8勝4敗1分、7日、東京ドーム】世界の王が新たな金字塔だ。ダイエー・王貞治監督(64)は7日の日本ハム戦(東京ドーム)で史上11人目となる監督通算1000勝を達成した。5本のアーチによる祝砲で豪快に相手をねじ伏せるダイエーらしいメモリアル白星。それは病後のリハビリに立ち向かう盟友・長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督(68)に贈る、熱い思いが込められた1勝でもあった。
祝砲のアーチが止まらない。松中、井口、そして城島も…。5発の派手なホームラン、たくましいまでに成長した愛弟子たちに目を細める。現役時代は868度眺めた放物線をベンチからゆっくりと、味わった。
「選手が頑張った結果だと思っているので、特別なことはない。監督の通算勝利なんて、関係ないよ」
歴代11人目の大台にも王監督は照れくさそうに笑った。少し目は充血していた。巨人で5年、ダイエーで10年目。通算1000勝に到達したのはかつての本拠地・東京ドーム。松中から手渡されたウイニングボールと花束を高々と挙げ、ファンの祝福に応えた。
この日、都内の自宅を出ると3年前に亡くなった恭子夫人の墓前でそっと手を合わせた。その都内の自宅、そしてもう住んで10年にもなる福岡のマンション。現役時代の輝かしい記録の数々とは裏腹に、栄光の過去を物語るものは、ほとんどない。「終わったことにはこだわらない」。この日の記念のウイニングボールも「自分だとなくしちゃうから」と惜しげもなく球団に預けた。
1000勝はもちろんだが、王監督にはむしろ1034勝のことの方が気になっていたかもしれない。脳こうそくに倒れた盟友・長嶋監督。監督通算勝利数を追い抜くのは、時間の問題だ。
記録の王、そして記憶の長嶋。数字では劣る長嶋監督がもてはやされることに疑問を抱いたこともあった。しかし、いまは違う。王監督だからこそ知るミスターの魔力。長嶋監督だからこそ知る世界の王のすごさ。まだ見舞いにも行けないペナントの真っ最中。記念の1000勝はリハビリと闘うミスターに贈る王監督からの熱き心のメッセージになった。
監督業、15年。監督としてはイバラの道を歩んだ。昭和59年に巨人の監督に就任したが、5年で解任。平成7年にダイエー監督に就任後も2年目に初の最下位。ファンから生卵を投げつけられる屈辱も味わった。
「名選手、名監督にあらず」−。つまらない格言で批判にさらされることもあったが、若手を積極的に起用して常勝軍団を作り上げた。その結晶がこの日の試合だ。
松中が2打席連発を放てば井口も七回、左中間に豪快ソロ。八回に城島が締めた。「華々しいウチらしい勝ち方。ファンには、喜んでもらったんじゃないかな」。記録よりもずっとこだわり続けた勝ち方。花開いた“王イズム”に格別のうれしさがこみ上げた。
「通算勝利よりも、その年の優勝争いのポイントとなる戦いの方が興奮する。これからも勝ち続けたいね」
大きな目をギョロリと見開いた。記録にこだわらないその目が見据えているのは、日本一連覇だけ。世界の王の挑戦はまだ終わらない。
[サンケイスポーツ 2004年6月8日]