ダイエーが地元ファンの声援をバックに、4年ぶり2度目(南海時代から4度目)の日本一に輝いた。甲子園での3連敗を乗り越え、王貞治監督(63)が福岡ドームで初めての日本一の舞い。阪神・星野監督の勇退報道にも情けはかけず、"ビッグワン"は本拠地で高々と飛翔した。
短い至福のときがゆっくりと流れた。見慣れたはずの福岡ドームの天井がゆがんでいく。玄界灘の潮風に乗るように王監督が4度、舞う。第7戦までもつれ込んだ球史に残る死闘を制し、野球人として絶頂の快感が、4年ぶりに体内を駆けめぐった。
「2勝3敗で返ってきて逆転優勝。感無量です。ただただひと言、うれしいです。1年間、支えてくれたファンの前で日本一を決めて最高です。これ以上の思い出はないでしょう」
その目は真っ赤。冷たい浜風の影響か、屈辱にまみれた甲子園の後遺症で声は枯れていた。地元に戻って、再びシリーズの流れが変わった。声をフルボリュームにして、力を与えてくれた博多のファンに精いっぱい応えた。
礼儀を重んじた。長年の強敵が去る。が、情を挟むことはしなかった。開幕直前の星野監督の勇退報道にも、「野球に集中させてほしい」とキッパリ。戦いが終わるまで無視を貫き通した。それが闘将の願いと悟っていたからだ。
「仲間として最高の形で送りたいけど、同じ土俵で戦う以上、最善を尽くすのが礼儀。星野監督も満足していると思う」
第2戦の先発は和田と内心決めていた。杉内には血行障害があることから、寒い甲子園での第3〜5戦を避け尾花投手コーチは福岡ドームで行われる第2戦に杉内を推した。かつての頑固さはない。勝利のためにすべてを受け入れた。「杉内が本当によく投げた」。第2戦後の深夜、博多の夜空に向かって何度も叫んだ。
2連勝で迎えた大阪への移動日。福岡市内の中華料理店で「これから勝負」と自らに言いきかせた。シリーズ中の外出は自粛。食事はホテルですませた。大のビール党も前夜は1滴も口にしなかった。3年前のON決戦では2連勝から4連敗。もう悪夢を繰り返したくない。自らを律することから始めていた。
「悔しがるから、やりがいがあった」。現役時代、燃える男は闘志をむき出して向かってきた。「いい時代だった」と気と気のぶつかり合いを楽しんだ。打てば顔をゆがめて悔しがる。逆に抑えられれば、ほえたてた。甲子園での3連敗…。はい上がる虎の姿は、かつての闘将にダブってみえていた。
「何十年かたった後、振り返ったときにイの一番に浮かんでくるシリーズになったと思います。敗れた星野監督には申し訳ないけど、お互いにいい思い出になるシリーズだった」
球団は身売り問題に揺れ、自らの進退の影響も考慮し、来季続投は公言している。「ぽっくりいくまでユニホームを着る」-。お互い切磋琢磨した男が、惜しまれながら去っていくが、63歳はまだ『気力』でふんばる。この至福の一瞬がある限り。
[サンケイスポーツ 2003年10月28日]