王ダイエーが最終決戦で強さを見せつけ、4年ぶり2度目の日本一に輝いた。10年ぶりにもつれ込んだ第7戦だったが、ダイエーが序盤から圧倒した。初回に松中の2点二塁打で先制し、3回には井口、城島が1発。6回にも城島が2打席連続弾を放つ長打攻勢をかけた。投げてはルーキー和田が2失点完投。星野阪神を、最後は投打で圧倒し、試合を終始支配した。勇退する敵将とは対照的に、福岡で王国づくりを目指し続ける王貞治監督(63)は、地元ファンの前で、笑顔で4度、宙に舞った。
涙はなかった。笑顔でナインの歓喜の輪に歩み寄った。両手を水平に広げ、至福の瞬間を味わった。4度、舞った。「ただ、ただ、一言、うれしいです」。かすれた声を張り上げた。もつれにもつれたシリーズを制した。「何十年たった後に振り返っても、イの一番にあがるシリーズ」。本拠全勝も初なら、福岡での地元球団の日本一胴上げも初めて。「我々、やりました! 皆さんの前で日本一を取ることができて最高です」。最後は絶叫調で4年ぶり頂点の喜びを表現した。
敵将の勇退にも私情を挟むどころか、攻めのさい配に徹した。現役時代、24本塁打した相手。監督でも99年に星野中日を下して日本一に。球界を彩ったライバルが去る寂しさは封印した。「勝負なのだから、こちらが最善を尽くすことが、同じ土俵の上で戦う星野監督に対しての礼儀」。その言葉通り、最終決戦は、これでもかとねじ伏せた。打線は3発と破壊力をみせつけた。「長打力はウチの方がある」と語っていた戦前の読み通りの展開だ。先発和田も2失点完投。リーグVの原動力のルーキー左腕が躍動した。監督みょうりに尽きる大一番での勝利だった。
6戦目まで際だった積極さい配も、王監督ならではだった。「おれは結果論で生きてない。結果を出す過程をつくる立場」。敵地3連敗と結果は出なかったが、最善の手を打ってきた手応えはあった。そして、もっとも重圧がかかった最終決戦で、選手は思う存分に力を発揮。「4勝3敗だが内容的には差のあるシリーズだった。ウチの選手のすばらしさを再認識しました」。7試合の死闘にピリオドを打った選手を称えた。
39年間のユニホーム生活で、現状に満足したことはない。今季、全球団に勝ち越す「完全優勝」を成し遂げても「なぜ90勝できなかったか」と自問自答した。星野監督の最後のリングでも「王貞治」の生きざまに背く戦いはできなかった。「星野さんには申し訳ないが、いいシリーズだと思います」と振り返った。
自らの進退問題でも、王監督は前に進んだ。今年で9年目が終わる10月中旬、中内オーナーから2年契約を打診された。1年勝負にこだわる男が、長期政権をあえて受諾した際、同オーナーに説いた。「今補強しなくても2、3年は戦える。でも、ここで手を抜かないでください。中途半端な形で次の人に任せるわけには行きません」。次世代まで視野に入れた。本社の再建問題と絡み、球団の苦しい経営事情を察しながら、プロ球団として理想の在り方を求めた。結果が出なければ、どうなるか、痛いほど分かっている。それでも「勝たなければいけない義務がある」。その姿に中内オーナーは「自分が身を引けばどうなるか、口には出さないが分かっていらっしゃる」と心中を察した。63歳。「70歳は無理」と笑う。かたくなな性格が平たんではない道を歩ませた。
福岡住まいも10年目となる。王監督の生きざまはナインの体に染み込んだ。バックネット裏から観戦した小久保は「(積極的な姿勢は)後悔したくないからでしょう。選手たちも以心伝心で分かってます。だから、チームに一体感がある」。チーム一丸になれたから、逆転日本一がある。「選手を褒めてあげてください」(王監督)。今月2日に故恭子夫人の墓前で誓った「日本一」の3文字を選手が実現してくれた。99、00年の連覇では、シーズン後に母登美さん(102)に優勝報告したが、今季はシリーズ後とした。2年前から球場を訪れていない母に最高のプレゼントも贈ることができる。次なる狙いは連続日本一だ。03年10月27日。王監督の新たな戦いが始まった。
[日刊スポーツ 2003年10月28日]