「3つ負けられる」と豊富な経験からくる戦法で日本シリーズに臨んだダイエー王貞治監督が、本拠地・福岡ドームで2連勝。勝因には、選手のモチベーションの高さ、データ処理の巧みさ、先発ローテーションの成功、地の利などが挙げられるが、最大の功績は余裕しゃくしゃくの王監督の姿勢にある。
現役時代から数字に強い王監督は、自身のシリーズ成績を聞かれると、立て板の水に語る。
「プロ野球人生39年でシリーズは、今回で20回目の出場。巨人の選手時代は11回勝って、3回負け。あとコーチで2度出場して、監督としては1勝2敗ですよ。だからシリーズに対してさほど緊張感はないね」
現役時代に1度、中日の指揮官として2度シリーズにコマを進め、すべて敗退の星野監督にはキャリアではるかに勝る。ドーンと受けて立つとの構えだが、この余裕はダイエーだからこそ、とも強調する。
「全国的な人気チームの監督は大変だよ。監督業以外にも気を使わなくてはならないからね。巨人も、日本一になった原があれだし、新監督の堀内も今はいいが、ちょっと悪いとどうなるか分からない。その点、私は福岡にきてからは、のんびり楽しく野球だけに専念させてもらっている」
古巣の巨人人事のことしか言及しなかったものの、このシリーズを最後に勇退する星野監督のことも含んでいるよう。そのあたりを、球団関係者が解説する。
「シリーズ直前の星野さんの勇退報道には、王監督も驚いていましたよ。監督業以外のことで、身体をより悪くしたんだろうかと気遣っていた」
むろん、余裕のみでの2連勝ではない。まず、選手のモチベーションの高さが目立つ。
「本塁打連発の城島は、チーム打率(.297)は程度が低いパ・リーグだからできたという声に"本物かどうかみせようじゃないか"と彼らしく燃えている。初戦のサヨナラ打、2戦目にダメ押しの3ランを打ったズレータは"ここで活躍しないと日本球界からオサラバかも"と集中力を高めている」とは球団関係者。
井川、伊良部を打ち砕いたのは情報分析の確かさと自らスコアラー陣に感謝の言葉をかけた王監督は、第1戦先発は和田がベターというネット裏の声も黙殺した。
「王監督は万が一、連敗スタートでも、クールで度胸のいい(3戦目の)和田が止めてくれるとの形をとった。そこには当然、1戦目を勝てば、杉内の気持ちも楽になり好投が期待でき連勝との図式もあった。今回はいい方に出たよ」と球団幹部。
この連勝で「あと2勝すればいい」に衣替えした王ダイエーが、敵地・甲子園に乗りこむ。
[夕刊フジ 2003年10月20日]