ダイエー3年ぶりの優勝!王監督が5度宙に舞う


 【パ・リーグ、ロッテ10-13ダイエー、26回戦、ダイエー18勝8敗、30日、千葉】ダイエーが3年ぶり3度目(南海時代から13度目)のパ・リーグ優勝を決め、王貞治監督(63)の体が5度宙に舞った。ロッテ戦の試合中に「西武が敗れ、V決定」の報がナインに伝わり、約1時間後に"自力"で13-10の打撃戦を制した。10月18日から福岡ドームで開幕する日本シリーズでセ・リーグ覇者の阪神と日本一をかけて戦う。

 千葉の浜風を両手の翼に受けて、王監督が宙に舞った。幾多の羽が最後の力を振り絞り、将を天へと押し上げる。夜空に向かって1度、2度…5度、舞った。苦しみ抜いてたどり着いたリーグの頂点。指揮官の目は潤んでいた。

 「きょうを迎えるまで苦しかったんで、これまでの3回の優勝の中で1番うれしい。胴上げ5回? 最後は本当に苦労したんで、選手たちの気持ちが伝わってきた」

 最後の最後でもがき苦しんだ。マジック3としたのは9月23日の西武戦(福岡ドーム)。そこから、20得点以上を4度も記録したオリックスに2試合連続で延長戦サヨナラ負け。28日の近鉄戦では投壊で本拠地胴上げも流れた。試合後の緊急ミーティングでは「前に進むしかない」と浮足立つナインを鼓舞した。「死に物狂いでやれ」とげきを飛ばした。

 この日も苦しい展開。先発の杉内が四回途中で6失点KO。しかし、六回に"つなぎの打線"が本領発揮。7点を奪い逆転した。すると、午後9時12分。七回裏の守備中に西武が敗れて優勝が決まった。結局、13-10と乱戦を制して"自力"で歓喜の輪をつくった。

 グラウンド外でも苦境の連続。5月下旬、球団の身売り話が浮上。動揺するナインを集め、「現場は目の前のゲームに勝つだけだ!」と声をからした。雑音を封じるために、とにかく勝ち続けなければならなかった。

 中内オーナーには「現体制が一番」と球団存続を訴えた。監督就任9年目。一度は区切りをつけようとも考えたが、球団の続投要請を受けた。「こんな状態の球団を放ってはおけない」。球団存続の大ピンチを前に責任感が押し寄せてきた。

 3年前の連覇と違う。若い投手陣が台頭した。開幕ローテ6人の平均年齢は22.8歳。63歳の指揮官にとっては、親子ほど離れた息子たちのような存在だ。新聞は芸能欄まで読み、時事ネタはチェック。若い世代の話題に付いていこうと努力した。登板翌々日には休みを与え、里帰りも許した。7月の球宴翌日には、ルーキー和田らを食事に誘った。

 「打者が調子づくのが6月。それまで若手投手陣が活躍してくれた。西武にずっと負け越していたんで、全球団に勝ち越しての完全優勝は二重の喜びと感じている」

 3連覇を逃した2年前。1度だけユニホームを脱ぐ決意をした。妻の恭子さんが入退院を繰り返し、周囲に「やめたい」ともらした。だが、恭子さんはそれを望まなかった。「もう一度、あなたの胴上げが見たい」という言葉に気持ちを切り替えた。

 「おれから野球を取ったら、ただのジイちゃんだ。大好きな野球をやっていこう」。恭子さんは平成13年12月に他界。昨年12月、東京・目黒区内の墓地から遺骨が何者かによって盗まれた。いまだに行方は分かっていない。王監督は29日、それでも墓前で手を合わせた。妻の笑顔が千葉の夜空に浮かんだ。

 「日本シリーズは勝つか負けるか2つにひとつ。選手が苦しんだのを生かして、絶対日本一になります!」。日本シリーズVを予告した。相手は猛虎旋風を巻き起こした星野阪神。闘将とは中日監督時代の平成11年に対決し、4勝1敗で圧倒している。もう一度。2度目の日本一の舞いを見せるつもりだ。

[サンケイスポーツ 2003年10月1日]