王「来季で勇退」簡単に許せないダイエーお家事情


 リーグ優勝へのマジックを「3」としたダイエー・王貞治監督(63)が独白-。来季限りでダイエーの監督を退任する意思を固めていることを明らかにした。来年はグラウンドで指揮を執る一方、自ら再来年のチームを託すのにふさわしい後継者の人選を行っていくという。

 王監督は自らの去就について、淡々と次のように話した。

 「来年1年はやるよ」と続投を明らかにした上で、「だが、その後は…」と言葉をのんだ。

 そして、「来年でダイエーの監督になって10年(95年に就任)になる。チームも形になってきたし、次の人にバトンタッチする時期かなと思っている。もちろん自分一人で決められることではないので、周囲の人と相談していきたい。(後継者についても)次をだれにするか、どんな人がいいのか、球団と話し合っていきたい」。

 こう語った後で、「一部でいわれているような巨人の監督は、絶対ないから」と巨人の監督就任説は完全否定した。

 すでに8月末には、中内正オーナーから続投を要請されている。このとき王監督は続投は受諾したものの、契約年数について詰めてはいない。こうしたことからも王監督の来季限りで勇退、の決意が固いことは明白。

 王監督は周囲の気配り、目配りを欠かさず、決して自分本位で行動するタイプではない。また中途半端な形で仕事を投げ出す人でもない。前述の通り、チームが毎年、優勝を争えるような軍団として"形"になってきたと判断。いい時期に後継者にバトンを譲ることが最良と考えたようだ。

 事実、目指してきた「投手を中心にした守りの野球」は実りつつある。エースの斉藤を中心に、ルーキーながらローテーション投手として計算が立つ和田、新垣。潜在能力の高い杉内、寺原らが控える。いずれも20代前半と将来は安泰。

 さらに今秋のドラフトでは大学ナンバーワンの右腕・馬原(九州共立大学)を自由枠で獲得することになっている。

 打線は井口、松中、城島、バルデスの100打点カルテットは球界一の破壊力を誇る。これに来年は故障が癒えたチームの顔・小久保が戦列復帰するのだ。

 王監督は常々、「球団(ダイエー)は優勝(99年に日本一、00年にリーグ連覇)をするのに4年も待ってくれた。巨人だったらどうだろう。球団には感謝している」と話している。勝つことと選手を育てるという大命題をいま、達成しつつある王監督。就任10年目の来季オフ、集大成を迎え、ユニホーム生活にピリオドを打つことになる。

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 一度口にしたら、事を簡単に翻す王監督ではないが、球団の身売り問題の進展によっては一変しかねない。

 ダイエー福岡事業のホテル、ドーム球場の売却先選定では、すでに外資系会社による入札金額などの条件提示は済んでいる。10月中にも売却先が決まる見込みだ。

 球団については、来季シーズン中にも売却先が決まる方向だが、買収にあたり取得条件の中に「王監督の留任」が盛り込まれる可能性がある。

 現役時代の輝かしい球歴はいうに及ばず、人気、知名度の高さ、名将の一人に数えられる監督手腕。加えて品位、品格も申し分ない。

 王監督でなければ、買収金額は下がるばかりか、買い手がつかないことさえ予測される。ダイエーや売却先から頭を下げられれば、律義な王監督だけに容易には拒否できないだろう。一転"留任"もありえる。

 リーグ優勝から日本シリーズへと息を抜く間もなく走り続ける王監督だが、実は来秋、球界を揺るがすこと必至の去就問題も始まっている。

[夕刊フジ 2003年9月24日]