古巣・巨人を倒して4年ぶりの日本一。それを足掛かりに常勝軍団作り。ダイエー・王貞治監督のシナリオが、現実味を帯びてきた。
福岡ドームでの原巨人との3連戦のフィナーレは、快速球ルーキー・新垣渚（九州共立大）のワンマンショーだった。
セットポジションでも152キロを記録するスピードボールで度肝を抜き、ルーキー対決になった巨人・木佐貫洋（亜大）を圧倒。
「すごいピッチャーだね。日本一だよ」
テレビ解説をしていた巨人OBの中畑清氏が驚きの声をあげたほど。
「新垣はいいですよ」と、絶賛していた王監督は、あえて巨人戦にぶつけた作戦が当たって会心の笑顔だ。
「木佐貫もよかったし、大型ルーキー投手同士の対決で見ごたえがあったね。こういう見どころがないと面白くないよね」と大満足。それもそのはず。
「新垣同様に、和田（早大）もいい。肩痛はたいしたことはないよ。周囲が大騒ぎしただけだ。今年はいいルーキー、外国人投手が入ってきたし、本当に優勝のチャンスだからね」と明言するからだ。
3年ぶりのリーグ優勝にとどまらず、4年ぶりの日本一へ照準を定めている。相手はもちろん古巣・巨人だ。
「松井がいなくなっても、巨人の戦力は群を抜いているからね」
オープン戦とはいえ、この巨人3連戦は、日本シリーズの前哨戦のようなものだ。
福岡ドームは4万5000人、4万8000人、4万8000人と連日の大入り。世の不景気風など、どこへやら。
松井のヤンキース入りで日本球界の危機が叫ばれているが、王ダイエーだけは、まるで無縁の別世界のよう。
「福岡のファンは『球場に行ってホークスを応援しよう』という気持ちが本当に強い。ありがたいことですよ。ファンのためにも勝たないといけない」と、王監督は感謝感激する。
古巣・巨人を破って日本一になるのは、王監督の悲願でもある。
3年前の20世紀最後を飾ったONシリーズに敗れた屈辱を忘れていない。
「何としても巨人にお返しをしたい」という雪辱の格好のチャンスが今年なのだ。しかも、巨人を倒しての日本一だけで満足するわけでない。
「60を過ぎていつまでも監督をやっているわけにはいかないだろう。世代交代は必要だ。後進に道を譲ることも考えないといけない」
ここ数年、こう言っていたのに、ひょう変している。今ややる気満々だ。
「野球人は、ユニホームを着ていてこそ意味がある。できる限りユニホーム生活を続けないと-」
今季でダイエー監督9年目。今年の5月で63歳になる王監督は、さらに長期政権に意欲を燃やす。ダイエー関係者が裏事情を明かす。
「昨年のオフに、ドミニカ、米国へ視察旅行したことが、引き金になったのではないか。ドミニカの大統領、米国のパウエル国務長官などにも会って、"世界の王"の立場が改めてわかり、日本球界のためにも、簡単に身を引くわけにはいかないと思ったのだろう」
巨人だけでは日本のプロ野球界を救えないという厳しい現実は、確かに王監督も肌で感じている。
「長嶋さんがいない今、王さんにはいつまでも監督をやってほしい。王さんが辞めたらダイエーはアウトだし、パ・リーグそのものが存亡の危機になる」
こういう切実な思いは、球界関係者の誰もが持っている。王監督の常勝軍団作りへの意欲は大歓迎されるだろう。
[夕刊フジ2003年3月3日]