“世界の王”の世界戦略…その2


 ホワイトハウス、ドミニカの大統領宮殿といった派手な外交ばかりではない。なかなか日の当たらないところに対しても、積極的に接してきた。世界の王に声をかけられたら…これぞ、王外交の神髄なのだ。

<怠らない地道な王外交>

 ドミニカのウインターリーグの試合を視察して王監督は感激した。

 「ドミニカで育てられ、大リーグで活躍する選手がこの時期、ドミニカへ帰国。自国のファンの前で体を張って真剣なプレーをする姿を目の当たりにして心の底から感激した。このウインターリーグに将来は日本からも選手を参加させたい」

 さらにはドジャース、広島の野球アカデミーなどを精力的に見て回った。

 「こんな偉大な事業は本当に野球を愛している人でないとできるものではない」と、ドジャースの前会長のピーター・オマリー氏、広島の故・松田耕平前オーナーを絶賛。

 「ドミニカの文化として野球を育て、その協力の元に、ここから育った選手たちが大リーグに、あるいは日本の野球界で活躍。さらにまたウインターリーグに帰ってくる。野球はもはや一個人や一事業体、あるいは一国のものではなくて素晴らしい世界の文化だよ」

 米国でも意欲的な活動は変わらなかった。ロサンゼルスで、ドミニカで称賛した、前ドジャース・オーナーのピーター・オマリー氏のオフィスを訪問。世界の野球事情について意見交換。

 ピーター氏の父でドジャースの生みの親のウォルター・オマリー氏と、オマリーファミリーだったアイク・生原氏の墓前に献花。

 続いて奇跡の復活を遂げた村田兆治氏の手術などで知られる、フランク・ジョーブ博士を表敬訪問。過去、10人にものぼる日本人選手を救った謝意を表すとともに、最新のメディカル施設を見学した。

 それだけにとどまらない。オーランドで故テッド・ウィリアムス記念館を訪れ、愛娘のコーネリアさんを弔問。

 ボルティモアでは18年ぶりにベーブ・ルース記念館を再訪。素晴らしい展示品の日本公開などの意見具申をして記念館側を感激させた。まさに世界の王外交が展開されたのだ。

 「アメリカの野球界はクーパースタウン(野球殿堂)だけでなく、ベーブ、テッド、ヨギ・ベラなど公的にとどまらず私的にも球界の過去を大切にしている。オマリーさんのオフィスにしてもしかり。ドミニカだってそうだ。昔のことを大切にすることで現在が続き、明日が生まれてくる。これが大切なんだ」

 こう強調する王監督は、日本の風潮に警告を発する。

 「今の日本は何か忘れてしまっているのじゃないかな。今日の人気と金だけが一人歩きしていて、昨日のことはさっさと消えてしまう。何か人の心の中が殺伐としているような気がする。過去に脚をしっかりつけたうえで未来にチャレンジすることができないような人生なんて味気ないことじゃないのかな」

 そして、今後もキューバ行きなど積極的な王外交を宣言する。

 「野球をやってきた、まだ今もやっていることがどんなに幸せなことか、改めて再認識できたよ。それに野球に携わってきた人間として、野球というものの影響力の大きさをひしひしと感じたし、自分なりの責任の重さを痛感させられたな。自分もやっとここまで来ることができたんだから、今のチーム、日本の野球界、いや野球を踏まえたうえで世界のためにできることは何でもしたい気持ちだよ」

 巨人のユニホームを脱いだ後に、『世界少年野球大会』に心血を注ぎ、成功させた王監督。

 「王監督がコミッショナーとして最適だ」という王コミッショナー待望論が渦巻く中、今度は世界の王として国際的な野球外交を展開。その動向が注目されるのは当然だろう。(おわり)

[夕刊フジ2003年1月7日]