ヤンキース・松井大旋風のあおりをくい、激動の2003年になる日本のプロ野球界。コミッショナー就任待望論が起きている世界の王の動向が最大の焦点になる。何とホワイトハウスと新たなルートを作るなど、国際的な野球外交をスタートさせているからだ。世界の王の"世界戦略"を2回にわたり、報告する。
「今度は世界一の野球王国のキューバに行きたい」と、世界の王ことダイエー・王貞治監督が燃えている。
昨年12月中旬から下旬にかけてのドミニカ、米国視察旅行が大成功だったからだ。
<ホワイトハウスでの王外交>
ホワイトハウスでパウエル国務長官、アーミテージ副長官がわざわざ王監督を出迎えてくれたことには、仲介の労をとった加藤良三駐米大使が仰天したという。
「まさかパウエル長官自らが執務室で王監督を出迎えられるとは、本当に驚きました。イラク問題を抱えた今の時期に長官に会うということは、各国の高官でも大変難しいのが現状ですが、わざわざ長官の方から時間をとってくださるということは異例中の異例です。しかも、パウエルさんはアーミテージ副長官と2人で王監督のビデオを会見前にあらかじめ見られたそうですよ。王監督は日本で一番有名な人です」
ベーブ・ルース、ハンク・アーロンの記録を破った世界一の868ホーマー。伝説的な"フラミンゴ打法"はメジャーでも知らない人はいないが、米政府の首脳たちまでが世界の王のファンだったとは-。
「王さんがホームランを打ったとき、その飛距離にも感動しますが、それよりもっともっと心を打たれるのは、ホームランを打った後の王さんの姿に自信あふれる威厳とエレガンスを見ることができることです」
パウエル国務長官、アーミテージ副長官からたたえられた王監督は、こう答えたという。
「丸い球を球体のバットで打つわけですが、本当にシンでボールを捕らえた喜び、その感触をかみ締めているのだと思います」
さらに国家安全保障会議のモリアティ・アジア上級局長と別の執務室で野球談義。「監督になってから選手時代と何が変わったか」という質問にも明快な返答。
「ことに監督の仕事は忍耐第一主義に、選手自らが働きやすい状態を作るためのモチベーションをいかに与えていくか。また各選手が得意とする能力を効果的にいつ発揮させるべきか」
この王持論に「われわれ政治の社会にも大いに参考になる」とうなずいたモリアティ局長は、2003年のホワイトハウスでのティーボールのインストラクターを依頼した。
「シーズンが終わり次第お手伝いできると思います」と快諾した王監督。ホワイトハウス・ルートを確立したのだ。
<ドミニカでの王外交>
ホワイトハウスに行く前に、ドミニカでも世界の王は周囲の度肝を抜く野球外交を展開している。
大統領府にイポリト・メヒア大統領を訪問して野球談義に花を咲かせた。その席上、「ドミニカ野球のドリームチームを編成して日本を訪問する」というメヒア大統領のプランが王監督に披露されたという。
ソーサ(カブス)、マルチネス(レッドソックス)、モンデシー(ヤンキース)、ソリアーノ(ヤンキース)、2002年のMVPテハダ(アスレチックス)などメジャーのスーパースターを輩出しているドミニカ。
大統領肝いりのドリームチームが結成され、日本行きが実現したら、国際的なビッグイベントになるだろう。
会談後にも仰天計画が用意されていた。大統領命令で、大統領専用のヘリコプター"01"の臨時司令官に任命された王監督の希望通りの視察飛行だ。
王監督は、日本でもおなじみ、ヤンキース・松井が巨人時代に一時その打法に取り組んだ、メジャーのホームラン王のソーサの大豪邸に直行。出迎えたソーサと熱いバッティング談義を展開した。
「あと10年はできるよ。打ちまくることだ。900(本塁打)、いや1000かな」とゲキを飛ばす王監督にソーサも真剣に応対。
「僕も若いころは毎晩クラブで朝まで飲んでいたりして、ムチャしていたよ。でも今は違う。やっとわかったよ。体を休めて真面目にバッティングのことを考えている。太モモでパワーを生み出す。ミスター・オーに習ったことだよ。リストを強くすることもね」
時間を忘れる熱血ホームラントークが終われば、"01"で大統領宮殿のヘリポートまで一直線。
イポリト・メヒア大統領、国民的スーパースターのサミー・ソーサとの、世界の王ならではのトップ会談。ドミニカでの王外交も大成功をおさめている。(つづく)
[夕刊フジ2003年1月6日]