20日、都内のホテルでドラフトの前に行われた12球団監督会議の席上、ダイエー・ 王監督が、FA改革を提案した。2人枠を1人に削減するもので、王監督らしい絶妙なタ イミングの巨人包囲網だ。
「20人も30人もFA宣言するならともかく、最高の年で6人しか手を挙げないのなら、 1球団1人で十分じゃないか」
王監督が提案したFA選手獲得枠1には、説得力がある。ほんの一握りの選手しかFA宣 言せずに、それを巨人が獲得するだけ。
「また巨人がお金にあかせてFA選手を取るのか。つまらなくなるな」と、ファンの プロ野球離れを加速しているのが現実だ。
「ファンに対して、野球界も変革していくという姿勢が必要だ。なるべく戦力均衡 になるようにするためにも、FAで獲得できる選手を1人にするのはいいことだろう」
王監督の言う通りで、昨年までの巨人のFA市場独占状態はひどかった。落合、清 原、広沢、川口、江藤、工藤-他球団の主力選手を次々と獲得している。今年もパ・ リーグの4番、ノリこと近鉄・中村争奪戦に参戦中だが、王監督はタイミングを計って 削減案を出しているのだ。
「FA選手獲得枠を減らすと渡辺さん(巨人オーナー)が、巨人つぶしだと怒るかも しれないが、今なら聞く耳を持ってくれるんじゃないか」と言い切る。
確かに絶妙なタイミングだ。不動の4番だった松井が、FAでメジャー入りを決めた衝 撃がある。しかも、高橋由、上原、仁志などメジャー志向の主力が控えている。「FA は巨人の独り勝ち」とはいえなくなっている。
「松井のメジャー入りで、渡辺オーナーが、今度はFA廃止を言い出すんじゃない か」というブラックジョークが、球界内に流れているほどだ。
松井ショックと同時に、今の巨人首脳は胸をなでおろしているところだ。
新外国人選手として、松井とタイトル争いを続けてきたペタジーニを獲得したばかり。
「5番、右翼で起用する」と、とりあえず松井の穴埋めができ、原監督はじめとする 巨人首脳は喜んでいる。
松井が抜けた衝撃に右往左往しているときに、「FA選手獲得は1人だけ」という王提 案があったら、巨人首脳のリアクションは大変だろう。猛反発するかもしれない。
が、一息ついたところだから、聞く耳を持つだろうという王監督らしい配慮がある。
「ペタジーニはFA枠じゃないからね。(1人にしても)合法的に中村は取れるわけだ から」と、王監督が言うのも、巨人を無用に刺激しない意図が感じられる。金本、中 村とFA選手2人を阪神が獲れば、王提案は直接的には巨人に向けたものにはならない。 それでいて実現したら、来オフ以降の事実上の巨人包囲網になる。まさに遠謀深慮だ。
[夕刊フジ2002年11月21日]