メジャー行きか、巨人残留かの二者択一。後半戦スタートで、ペナントレースの行方とともに注目されるのが、巨人・松井秀喜の動向だ。苦悩の決断を迫られる松井に対し、世界の王が、「思い切っちゃえばいい」と、重大アドバイスをする。
「われわれの時代にメジャー行きを口にしたら、どうだろう、90%以上の人が反対しただろうね。でも、今は時代が違う。多くの人が賛成するだろうね」
868ホーマーを記録した、世界の王ことダイエー・王貞治監督は、まず時代の流れを強調した。
日本球界のスター選手が、当たり前にメジャー入りする現在、松井がメジャーを視野に入れているのは、自然の流れだというのだ。
そして、松井のメジャー挑戦の価値をこう明かす。
「野茂、イチロー、佐々木とそれぞれの専門分野で一流の日本人選手は、メジャーでも通用することがわかった。では、松井はどうか? という興味は当然だろう」
プロ入り1年目から4年連続最多勝の大記録を持つ近鉄・野茂英雄。通算229セーブ記録の横浜・佐々木主浩。アジアの張本勲と並ぶ7度の首位打者、シーズン210安打の記録を持つ、オリックス・イチロー。
それぞれの分野で日本球界の頂点に立ったスーパースターたちは、メジャーでもそのままの地位を築いている。後は日本を代表するホームラン打者・松井が、広いメジャーの球場で、何本打てるか。興味はその一点にある。
「松井にいきなりホームラン王になれというのは無理でも、メジャーに行くなら、30本から40本くらいは打つつもりでいないと話にならないからね」
王監督は、30本−40本が、メジャー挑戦の場合の松井のノルマだという。
その上で、巨人残留か、メジャー行きか、悩める松井に大胆な決断を促す。
「どっちに決断しても、周りからいろいろ言われるのは、同じだからね。思い切っちゃえば、いいんだよ」
巨人残留を決めれば、メジャー挑戦推進派から、「夢を捨てるのか」という、大ブーイングが起きるだろう。メジャー行きを決断すればしたで、巨人ファンから、「お世話になった巨人を裏切った」と、非難されるだろう。
王監督の言うように、どう決断しても、四方八方丸く収まることはない。
だからこそ、「思い切っちゃえばいい」と、シリたたきの最終アドバイスをするのだ。
メジャーに精通している、球界関係者が、王監督の発言をこうフォローする。
「王監督の言う通りでしょう。間違いなくメジャーに行きたい気持ちがあるのだから、行けばいい。今しかチャンスはないからね。行かないと、後で必ず後悔するよ。メジャーに挑戦して、その後、日本に戻ってまたプレーしてもいいんだから」
ドジャース・野茂、マリナーズ・イチローは、日本球界に愛想尽かし、縁切り宣言をしているが、松井は新たな道を切り開けばいい、というのだ。
わが道を行くよりも、周囲との調和を気遣う松井には、確かに「メジャー挑戦→日本球界復帰」という第3の道はベストの選択かもしれない。
[夕刊フジ2002年7月17日]