3冠王を目指しながら、肝心な豪快アーチを忘れたままの巨人・松井。ファンはヤキモキするだけだが、世界の王が究極のゲキを飛ばした。
「ウチのチームに関しては順調すぎるくらいですよ。寺原だってもっと使いたいけど、投手がたくさんいるからね。6連戦がないとチャンスが、なかなかないんだよ」
パ・リーグの首位に立っているダイエー・王監督は、こう豪語、V奪回に自信をみなぎらせている。
不安なのは、世界の王にとってかわいい後輩の巨人・松井のバッティングだ。
「松井はオレに似て不器用だよね。でも、不器用な方がいいんだ。ひたすら練習して打てるようになるしかないからね」と、日頃から後継者として気にかけている。
それなのに、今季は3冠王獲りとV奪回のダブル宣言をしながら、奇妙なイチロー化現象に襲われている。
イチロー並みの技有りのレフト方向へのヒットは出るのだが、売り物の右翼席の広告の看板に当たるような、超特大の一発が消えてしまったのだ。
27日の横浜戦(東京ドーム)でも2ホーマーしたが、左翼方向へのもの。松井らしい怪物アーチではない。
「どうしても引っ張りきれないんだ」と悩むゴジラ復活にはどんな方法があるのか。王監督の診断は簡単明りょうだ。
「外角に攻められるのはしようがない。相手だってホームランされるのは嫌だからね。外角のボールを思い切って踏み込んで引っ張る。それしかないじゃないか」
いろいろ考えずに、外角球を踏み込んで打ち、思いきり引っ張るだけ。それしかないというのだ。
一、二塁間に野手3人という王シフトを敷かれても、流し打ちをせず、ライトスタンドへホームランを打ち続けた、868ホーマーの世界の王。それだけに、松井のイチロー化現象に、誰よりも歯がゆい思いをしているのだろう。
だからこそ、こんなゲキまで飛ばしてみせたのだ。
「イチローみたいなヒットを打ってもしようがない。豪快なホームランを忘れたら、メジャーへ行けなくなってしまうぞ」と、冗談めかしながら、キツイ一発を放った。
すでにFAの資格を取得。「松井に巨人残留の線はない。間違いなくメジャー入りする」と、巨人OB、関係者が口をそろえる。フロントに対して引き留めの至上命令を出している渡辺オーナーでさえ悲観的。「メジャーでもどこの球団かに意味がある。ヤンキース、メッツ、カブス、マリナーズ−」と、この4球団なら仕方ないというニュアンスの発言までしているのだ。
そんなメジャー行きが濃厚の松井にとって、「メジャーへ行けなくなるよ」という、王監督の一言はグサリと、突き刺さるだろう。
世界の王の究極のゲキに松井が目覚めるか。こうご期待だ。
[夕刊フジ2002年4月30日]