寺原はオープン戦の観客動員用の切り札。投手陣強化に手応えを感じる、ダイエー・王監督は、余裕の寺原育成法に切り替え、長嶋終身名誉監督はじめ巨人首脳に真っ向反論だ。
注目度の一番高い、日曜日の巨人戦(福岡ドーム)で寺原をデビューさせた王監督だが、「結果なんか、はなから求めませんよ」と、試合前から冷静そのものだった。
3イニング投げ、清原にタイムリーを許し、被安打5の1失点。150キロどころか、MAX142キロと平凡なピッチングに終わった寺原にも、落胆することもない。
「寺原は、あんなもんじゃないが、初めての登板で、巨人の強力打線相手に1失点ならまずまずだろう。福岡ドームのスピードガン表示は、他の球場と比べ、数字が出ないからね。楽しみがないよ。打者が文句を言うわけではないんだから、もっと演出してもいいのに−」と、かばう発言をするほど。
というのも、すぐに寺原を必要とするような緊急事態ではなく、投手陣に余裕があるからだ。
「2年目の山田がよくなった。気持ちがやさしすぎたが、去年は途中から二軍落ちさせられ、シーズン最後までそのままの屈辱を経験してきたからね。左の先発が欲しいから、杉内は一軍に置いておきたい。飯島も派手さはないが、サイドからのクセ球で打者は打ちにくいだろうね」と、計算できる今季の一軍新戦力の名前をあげる。
「テレビの解説をしていた江川さんが、杉内は10勝できると言っていましたよ」と、テレビ局関係者から聞かされ、思わず破顔一笑のひとコマまであった。
寺原人気は評価しても、V奪回へ即戦力として促成栽培する必要はない−との最終判断がある。
「寺原はもう1試合、オープン戦で投げさせるよ」と、登板機会を与えるのも、一軍残留テストではなく、ファンサービス、オープン戦の観客動員を考えてのものだ。
いつまた球団身売りが再燃するかわからない、スクランブル状態だけに、オープン戦といえども、観客動員は生命線だ。寺原の役割は、あくまで集客の目玉になることだ。
高知キャンプの際は、「高校生だから、無理をさせることはないが、よければ、使わない手はない。スタートさえうまくいけば、2ケタ勝てるものは持っている」と言い切っていたが、投手陣強化で、余裕の育成法に180度方向転換している。
実は、巨人首脳へのデモンストレーションでもあるのだ。
「投手陣の充実しているウチにくれば、無理させず、ジックリ育てる。投手のいないチームに行くと、いきなり無理使いさせられ、故障する恐れもある」と、暗にダイエーを指して、巨人入り一本化を画策した巨人首脳もいた。
「ダイエーの苦しい投手陣の台所を考えたら、寺原をはじめから一軍で使うのは当然でしょう。二軍に置いておく余裕はないでしょう」と明言したのは、巨人の親会社・株式会社よみうり専務の肩書もある、長嶋終身名誉監督だ。
そんな巨人首脳に対して、真っ向から反論。「寺原は焦って使う必要は全くない」と、王監督は、結論を下したのだ。
[夕刊フジ2002年3月4日]