長嶋さん、超ド忘れで王さんに濡れ衣


 ミスター健在! 巨人・長嶋茂雄前監督に、新たなド忘れ伝説が誕生した。

 18日、静岡・草薙球場で行われた巨人−阪神OB戦。

 一塁側の巨人ベンチには長嶋前監督、原監督、王ダイエー監督ら豪華な顔ぶれがズラリ。“騒動”は試合終了後に起こった。私服姿で帰りのタクシーに乗り込もうとした長嶋前監督。愛用の眼鏡を持っていないことに気付き、「あ、眼鏡、大切な眼鏡を忘れた」と、着替えを行った貴賓室へ逆戻りした。ところが、部屋中を探しても見当たらないから、さあ大変だ。

 ミスターと眼鏡は、いまや切っても切れない関係にある。ファンが抱く、現役時代のハツラツとしたイメージを傷つけないよう、グラウンドではついに眼鏡をかけることがなかった。しかし、移動の新幹線や飛行機の中で読書をする際には手放せなくなっていた。

 関係者が眼鏡を探して右往左往する間、ミスター自身は貴賓室の中で、鬼の形相で無言のまま仁王立ちしていた。

 10分間を超える捜索後、前監督専属広報担当の小俣氏が眼鏡を探し当てた場所は、なぜか、王監督のウインドブレーカーのポケットの中だった。

 「ワンちゃん(王監督)は、どうして持っていっちゃったのかな? 探してもないはずだよ! いやあ、ありました、ありがとう、ありがとう」と首をかしげ、周囲を爆笑の渦に巻き込んだミスター。しかし、王監督にしてみれば、これはとんだ“ぬれぎぬ”だったようだ。

 関係者の証言を総合すると、こうだ。試合途中にベンチに退いたミスター。無類の寒がりだけに、ウインドブレーカーを求め、貴賓室へ駆け込んだ。この貴賓室をロッカー代わりに使っていたのは、川上、長嶋、藤田、王の歴代監督経験者だけ。ミスターが着込み、ポケットに眼鏡を入れたウインドブレーカーは、自身のものでなく、王監督のものだったのだ。

 ミスターのド忘れ伝説は枚挙にいとまがない。現役時代のある日、幼少時代の長男・一茂氏を球場へ連れていったが、試合に集中しすぎて、スタンドに置き去りに。また、試合後に「駐車場に置いた車がない。盗まれた」と騒ぎ出したが、実は地下鉄で球場入りしていた。試合中に「おれのグラブがない」とやって、ナイン総出の捜索となったが、本人のしりのポケットにあった、ともされる。

 退任後もなお、伝説に新たな1ページを加えたミスター。持ち前のオーラもあいまって、ドラフトを翌日に控えた原監督より存在感は上だった。

[夕刊フジ2001年11月19日]