終身監督“長嶋ブランド”は不滅!


 とうとう系列旅行会社までが便乗。読売グループの露骨な長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督かつぎ出し作戦に「そこまでやるか!」と球界OBたちからブーイングが起きている。

 台湾で行われている、国際野球連盟主催の野球のワールド・カップに行く長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督。さっそく便乗したのが読売グループの旅行会社だ。

 「台湾政府招待・長島茂雄巨人軍終身名誉監督ワールド・カップ視察台湾取材旅行のご案内」というFAXが新聞各社に届いた。

 「さっそくですが、長島茂雄巨人軍終身名誉監督が台湾政府の招待で11月6日から始まるW杯の視察のため11月9日から4日間の日程で台湾を訪問いたします。

 滞在中は10日に日本対キューバ、11日の対オーストラリア戦を観戦した後、当局のスポーツ関係者と会食することになっております。

 読売旅行では、『ワールド・カップ視察台湾取材旅行』を企画いたしましたので、各社ご担当の皆様にご参加の案内を申し上げます」。

 こんな案内状で、「長嶋」が「長島」になっているのはお愛敬だとしても、「ここまでやるか」と、球界OBたちが憤慨している。

 米中枢同時テロの影響で飛行機が敬遠され、大打撃を受けている旅行会社が、「長嶋茂雄」というビッグネームを使ってひと商売しようという魂胆がミエミエだからだ。

 「長嶋茂雄という永遠のスーパースターは、一読売、一巨人軍のものではない。日本プロ野球界の宝なのだから、フリーな状態で、大所高所からプロ野球のために活躍してほしい。セ・リーグ会長、コミッショナーというような立場こそ望ましい」と、球界OBたちが声をそろえるのもわかる。

 2004年のアテネ五輪の日本代表チームの監督という声があがっているが、これも今のままなら、読売グループが長嶋終身名誉監督を貸し出す形になる。

 これまでと態度ひょう変。五輪に全面協力を打ち出している渡辺オーナーとすれば、長嶋終身名誉監督という切り札を持つことで、アマ球界にまで影響力を駆使することができる。

 「台湾のワールド・カップは読売旅行だし、このままでは野球界はすべて読売が仕切ることになってしまう」と、警鐘を鳴らす球界関係者がいる。

 巨人・渡辺オーナーにとっては思惑通りの展開なのだろう。ある雑誌のインタビューにこう答えているからだ。

 −長嶋監督の退任発表(9月28日)には、世間があっと驚かされました。渡辺社長は以前から、「長嶋監督は終身監督」と言っていましたよね。

 「『終身監督』というのは一種の形容詞であって、たとえば『俺は終身社長だ』なんて言ったら、おかしいんじゃないかと思われるわね。長嶋君だって、死ぬまで監督やろうと思ってもいないしさ。こっちはしかし、終生、彼を読売グループから手放す気はないから。それで僕は『終身名誉監督』というものを当時から考えていたわけだ。そこから『名誉』を抜いただけの話であってね。だから『終身監督』などと僕が言ったらおかしいと思うのが普通だが、低俗週刊誌やスポーツ紙などは真に受けたわけだよな(笑)」

 長嶋監督勇退後の『終身名誉監督』という称号が、思いつきでなく、時間をかけて暖めていた構想であることを明かしているのだ。

 「終生、彼を手放す気はないから」と、本音ももらしている。が、何事も程度問題だ。やり過ぎると、長嶋茂雄という不世出のスーパースターの晩節を汚すことになってしまう。

 「巨人は嫌いだが、長嶋茂雄は大好き」という長嶋シンパは想像を絶するほどいるのだから。

(夕刊フジ編集委員・江尻良文)

[夕刊フジ2001年11月08日]