王が危惧する原新監督の“致命傷”


 ヤクルト・若松勉監督(54)が優勝監督になれば、プロ野球界の監督人事が大きく変わるか。

 波乱の21世紀。いきなりカリスマ監督が続々リタイア。不滅の人気を誇った巨人・長嶋監督、熱血を売りにした中日・星野監督、マジシャンの異名を取ったオリックス・仰木監督。ビッグネームトリオがユニホームを脱いでしまった。

 「若返り」とは、原新監督にバトンを渡した長嶋監督が辞任会見で口にした言葉だが、ただ世代交代しただけでは成功しない。

 「若い監督を育てる必要がある」と訴えるのは、ダイエー・王監督だ。具体的な方法論についてもズバリこう言い切る。

 「一番、勉強になるのは二軍監督をやることだ。実際にサイ配をふるわなければ何も身につかない。二軍なら失敗も許されるからね」

 原新監督が、長嶋監督の下で野手総合コーチ、ヘッドコーチを務めたことに関しても批判的だった。

 「野手総合コーチやヘッドコーチなんかやっても何も勉強にならない。原を監督にするつもりなら、二軍監督をやらせるべきなんだ」

 こう声を大にしてきたが、原新監督はついに二軍監督を経験せずに一軍で指揮を取ることになってしまったのだ。

 王監督が危惧するのも当然だろう。

 「原新監督は失敗するだろう。3年くらいしかもたないのでは−」という短期政権論が早くもチーム内外から噴出している。

 そして、王監督が勧める「二軍監督で帝王学を身につけろ」という監督育成法は、実際に成果をあげている。

 ヤクルト・若松監督がそうだし、一足先にリーグ制覇した近鉄・梨田監督も二軍監督を経験している。両リーグの優勝監督がともに二軍監督経験者になれば、画期的なことで、新しい時代の到来といえる。

 なぜ、王監督が二軍監督の重要性を強調するのか。自らの体験からきた切実な思いがあるのだ。

 「巨人の監督をやる前に3年間、助監督をやったが何もプラスにならなかった。ベンチにいてもサインを出すわけではないから、『ここで監督の藤田さんはどんなサインを出すかな』と、考えるだけ。実際にサイ配をふるうわけではないから、何も勉強にならなかった」

 藤田監督、牧野ヘッドコーチとトロイカ体制を敷き、王助監督は帝王学をマスターするというのが、球団側の構想だったが、アイデア倒れだったわけだ。

 二軍監督というポストの重要性は、実は、長嶋監督も認めていたのだ。

 「オレの時は現役をやめたら、即監督というレールが敷かれていて、ファンが許してくれなかったが、本当のことを言えば、二軍監督を経験して勉強したかったんだよ」

 そんな長嶋監督がなぜ原新監督に二軍監督を経験させなかったのか。不思議というしかないが、原新監督が失敗したら、悔やんでも悔やみきれないはずだ。

 そして、王監督の唱える「二軍監督を経験してから一軍監督へ」という帝王学コースの正しさが証明されることになる。

(夕刊フジ編集委員・江尻良文)

[夕刊フジ2001年10月05日]