ダイエー・王、55号更新目前の心中


 16日の対西武戦(西武ドーム)を快勝し、西武、近鉄との3強レースに踏みとどまったダイエー・王監督。外国人大砲を抱える両チームへの意地がある。

 「きょう勝てば何て事はない。福岡で熱狂的な声援が待っている」と試合前に断言した通り。

 11勝をあげ、今季エースとして奮闘している田之上を中3日で投入するサイ配がピタリ的中。

 「日本シリーズ第1戦に投げさせるなら、ウチでは田之上が1番向いているね。プレッシャーのかかる試合でも沈着冷静に投げられる投手だから」と、王監督が最大の評価をしているだけに、熱投も計算済みだ。

 負ければリーグ3連覇絶望の土壇場の西武ドーム決戦。その第3ラウンドを思惑通りに快勝。連敗を4でストップ。移動日なしで福岡ドームに戻り、17勝6敗1分と大口貯金先にしている日本ハムとの3連戦。その間に西武と近鉄が大阪ドームで星のつぶし合いを演じる。

 ここで一気に息を吹き返し、大逆転リーグ3連覇というのが、王シナリオだ。「3連覇というのが1番むずかしいんだ。3連覇できれば、4連覇、5連覇はできる」と言い切っていた王監督の読み通りの苦しいペナントレースだが、簡単にギブアップできない意地がある。

 「西武は外国人コンビ頼みのチームだからね」と、もらした言葉に王監督のプライドが秘められている。

 48本のカブレラ、38本のマクレーンの“ツイン・バズーカ”にオンブにダッコする西武と違い、ダイエーは井口、小久保、松中という純国産のクリーンアップトリオだ。

 近鉄も中村がいるものの、世界の王の日本記録55ホーマーに王手をかけているローズ抜きでは語れない。

 日本記録そのものに関しては達観している。カブレラが脅威的な量産をしていたときに、「50本以上は打つだろう。オレの記録を抜くかもしれない」と明言。

 記録更新チャレンジャーが途中からローズに変わっても、「あと1本の時に残り試合がいくつあるかだ。バースのときのように1試合とかでは苦しいよ」と、冷静に読んでいたから、記録を塗り替えられることに関しては観念している。

 ただ外国人選手に更新されるよりも、巨人の松井、近鉄・中村といった21世紀の日本プロ野球界を背負って立つ選手に抜いてほしいのは、本音だろう。

 日本のプロ野球界が最大の危機に直面しているのは、ファンを魅了する怪物がいないからだ。外国人選手は観客動員では、名わき役にはなれても、主役にはなれないのだ。王ダイエーが福岡ドームを満員にして熱狂させているのも、純国産クリーンアップの存在が大きい。

 昨年からの古巣・巨人の人気低迷を目の当たりにして、王監督が、松井に「55ホーマーに挑むのはいいことだ」と、激励してきたのも、そんな背景がある。

 ところが、現実的にはそうなりそうもない。ローズの日本記録更新がカウントダウンに入っている以上、ペナントレースだけは譲れない。

 プロ野球史上、サン然と輝く金字塔のV9巨人がそうだったように、外国人抜きのクリーンアップで、常勝軍団と呼ばれた森西武以来のリーグ3連覇を達成する。それが王監督の意地だ。(編集委員・江尻良文)


[夕刊フジ2001年09月17日]